第64話 大干ばつ
雨が降らない日が数か月続いた。
おかげで、森の中の川は干上がり、草木も元気がなさそうだ。
こういうことは前にもあったのだろうか……。
それにしても、このままでは森全体が枯れてしまう……。
それに、野菜もとれなくて、食糧難にもなりかねない。
生活用水も足りなくなってきている。
まあそれに、俺たちユグドラシル王国だけの問題ではなかった。
隣のグリエンダ帝国も、干ばつの影響を受けている。
数百年に一度の大干ばつだそうだ。
一番深刻なのは、スライムたちだった。
スライムたちの身体は水分でできている。
スライムたちは空気中に水分が少なくなっていて、栄養が足りてなさそうだ。
そのせいで、日に日に、目減りしていっている。
みんな小さくなって、元気がない。
あまりに小さくなりすぎて、元の半分の大きさ以下になってしまったスライムもいた。
そのまま消えてしまうんじゃないかというくらい、小さくなったスライムは、他のスライムと合体、吸収して、一つの個体になったりしていた。
このままじゃ、あまりにもかわいそうだ。
俺は、解決策を考えた。
「なんとか海から水を引ければいいんだけど……」
だけど、海はここからかなり遠いところにある。
俺がいくら枝を伸ばしても、到底届く距離ではない。
俺が、なにか考えがないかと、みんなに尋ねたところ――。
ドラゴンのリーダーである、フランリーゼが、ある提案をした。
「セカイ様、それならば、私たちドラゴンが力になれるかもしれません!」
『どういうことだ?』
俺はエルフに通訳を頼み、フランリーゼと会話する。
「私たちの翼があれば、海まで飛ぶことができます。それも一瞬で!」
『なるほどな、たしかに、ドラゴンの飛行能力なら、それも可能か……。だけど、海までいけたとして、水はどうやって運ぶ……? バケツで運ぶにも非効率だし、まさかドラゴンたちに口に入れて運ぶわけにもいかない……』
「そ、それはたしかに……」
フランリーゼが困っていると、次に名乗りを上げたのは、スライムのリーダー、キャサリンだった。
「セカイさま! それなら、私たちスライムにお任せを!」
『どういうことだ?』
「スライムたちなら、海から水を吸収して、水を運ぶことができます! まさに、セカイ様に水をあげているときのように……!」
『なるほど、たしかに!』
そういえば、スライムたちはいつも、近くの川や泉から、水を体に蓄えて、汲んできては俺に水を与えてくれていた。
スライムは体が水でできているから、その体をつかって水を運ぶことができる。
だったら、海からも当然水を運ぶことができる!
『それはたしかにすごいアイデアだ! ドラゴンたちがスライムを海まで運んで、連れて帰れば、水を運んでこられる……!』
「その通りです!」
そこに口を挟んだのは、グリエンダ帝国の大臣であるヒカムだ。
ヒカムも、グリエンダ帝国代表として、干ばつ問題に取り組んでいた。そのため、わざわざ出向いてきて、この会議に参加している。
「ですが……海水には塩分が含まれているとききます。飲み水や生活用水としてはまだしも、植物にとっては毒なのではないですか? セカイ様のお身体に障るといけません。それに、森が枯れてしまいます……」
ヒカムの疑念に、すぐにキャサリンが反論した。
「それも大丈夫です! スライムたちには、浄化の能力もあります! この街の下水を処理しているのは、他でもない、彼らですよ。スライムは体内であらゆる毒素を分解して、真水にする能力があるんです!」
「そうでしたか、それは失礼。たしかにそれなら大丈夫そうだ」
理論上は、完璧な作戦に思えた。
『よしじゃあ、フランリーゼ、キャサリン、お願いできるか?』
「もちろんです!」
ということで、フランリーゼ率いるドラゴン軍団は、キャサリン率いるスライム軍団をその背中に乗せて、遥か遠くの海を目指して旅立った。
フランリーゼの話では、ドラゴンの速さだと、海まではほんの2時間程度で往復できるそうだ。
しばらくして……ていうか、ちょうど2時間で、ドラゴンとスライムたちは帰ってきた。
『って……でか……!?』
かえってきたスライムたちは、みな驚くほど大きく育っていた。
それこそ、ドラゴンの5倍くらいの大きさだ。
それぞれのスライムが、まるでスライムキングくらいの大きさになっている。
水を思い切り吸い込むと、スライムというのはここまで大きくなるものなのか……。
スライムたちは、腹いっぱいに水を飲んだおかげか、みんなどこか嬉しそうだった。
それに、みんなのために役に立てることがうれしいのか、満足気な表情をしている。
スライムたちは一気に川に水を流し込む……!
すると、すぐに川は水でいっぱいになった。
「すごい……!」
みんな手を叩いて喜んだ。
それだけじゃない。
川に流しただけだと、すぐにまた乾いてしまう。
それだと根本的な解決にはならない。
雨を降らすことが一番だろう。
雨さえ降れば、森全体に水分をやることができる。
ここは俺の出番だった。
『よし、おれにまかせろ!』
俺はスライムたちから水を吸いだした。
スライムの身体に枝を差し込んで、水を一気に吸い上げる。
そして、俺は自分の枝を、まるでホースのようにして、空中に向けて、水を大量に発射した。
「うわぁ!」
俺の枝からは虹がほとばしり、ゴブリンの子供が声をあげる。
空中に向かって、水分を噴射。
森全体に、俺は雨を降らせた。
俺も久しぶりに水を接種して、生き返ったような気分だ。
雲に向かって水を発射したおかげか、雲は雨雲に変化した。
俺が刺激したおかげか、すぐに雨が降り出した。
「雨だ……!」
こうして、スライムとドラゴンたちのおかげで、俺たちは干ばつの危機を乗り切ったのだった。
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