第62話 困った双子だぞ
「うーん、困った……」
ある日、ゴンザレスは困り果てていた。
ゴンザレスの悩みの種というのは、その双子の子供のことだった。
筋肉のすさまじいゴンザレスと、容姿の優れたアンリの間に生まれた双子。
リクとソラ。
姉のリクと弟のソラは、どちらもその両親からの優れた特徴を受け継いでいた。
双子は、二人とも絶世の美女と、美男子だった。
しかも、ゴンザレスの強さも受け継いでいるから、運動神経も抜群。
スタイルも完璧で、誰もがうらやむ完璧なきょうだいだった。
しかし、若い二人には問題があった。
二人はなに不自由なく、まわりから愛されて、甘やかされて育った。
そのせいで、天狗になっていたのだ。
ゴブリンだけど、天狗。
若い二人は承認欲求を抑えることができない。
ソラはそのイケメンな容姿を利用して、常に周りに女の子を侍らせていた。
しかも、相手はゴブリンの女性に限らない。
街にやってきた観光客の人間や、多種族にまでおかまいなしに手を出すのだ。
しかも、どれも真面目に付き合うなんていうことはしない。
適当に、無責任に手を出しては、女性を泣かせていた。
リクも同じだった。
リクはその美貌をつかって、魔性の女になっていた。
常にイケメンを侍らせていて、いろいろなものを貢がせているようだ。
リクの周りには、親衛隊が常についていた。
リクも人間であろうが獣人であろうが、おかまいなしに誘惑した。
「……てな感じで、困ってるんですよ……」
通訳を通じて、俺にそう相談してきたゴンザレス。
あれだけ強く男らしいゴンザレスも、双子のやりたい放題には困っているようだった。
いくら親であるゴンザレスが言っても、双子は好き勝手に遊びまくっているのだ。
「そろそろあいつらもいい年だ。落ち着いてほしいんですけどねぇ……。どこまでも天狗になってて、正直手がつけられない。一度痛い目にあえばちがうのだろうか……」
ゴンザレスは俺に相談を持ち掛ける。
そうだな……たしかに双子の態度は問題だ。
【二人が誰かに負けて、自信を失えばいいんじゃないか……?】
「なるほど、確かにそうですね……!」
二人は喧嘩にも負けたことがないほどの最強だ。
そこはさすが、ゴンザレスの子供といったところか。
【もしかしたら、エメラルドなら二人に勝てるかもしれない】
「たしかに、あいつなら……!」
ということで、俺たちはエメラルドを呼び出した。
エメラルドは、ベンジャミンとミミコの息子で、ゴブリンとワーウルフのハーフだ。
エメラルドはゴブリンの筋肉と、ワーウルフの身体能力を併せ持つ、鬼狼という種族だ。
そんなエメラルドなら、戦闘で双子に勝てる可能性がある。
「というわけなんだ。エメラルド。どうかソラとリクと決闘して、あいつらに力をわからせてやってほしい」
「なるほど……そういうことですか。ゴンザレスさんの頼みならしかたない。俺がやってみます」
というわけで、エメラルドに依頼をした。
エメラルドは、さっそくソラの元へ。
「おい、ソラ。お前、遊びほうけて親父さんを困らせてるそうじゃないか」
「なんだ? エメラルドか。お前には関係ないだろ」
女性を周りに侍らせながら、ソラは答える。
「お前、自分が最強だと思って、ちょっとつけあがってるんじゃないか?」
「っは……! 当然だろ? 僕は最強に決まってる。容姿でも、戦いでもね」
「だったら、もし決闘で俺が勝ったら、親父さんのいうことをきくんだ……!」
「そういうことね。いいだろう。どこからでもかかってきな……!」
エメラルドとソラの戦いが始まった。
まず、エメラルドが仕掛ける。
ソラがそれを受け止める。
戦いはどちらも実力が拮抗していた。
エメラルドが吠える……!
「がううううううう!!!!」
獣のようになったエメラルドが、ソラに襲い掛かる。
しかし、ソラは華麗な剣さばきで、それを受け流し……。
そして、エメラルドの首元に剣を突きつけた。
「これで僕の勝ちかな? まったく戦いは美しくなくちゃね……。エメラルド、君は少し不細工だ」
「っく…………」
「あ、姉さんに挑んでも無駄だよ? あの人は僕より強いからね。じゃあね~」
ソラは女性たちと肩を組んで、そのまま繁華街に消えていった。
「すみません、ゴンザレスさん。俺じゃ力になれませんでした……」
エメラルドはしゅんとした顔で、帰ってきた。
「エメラルドでも敵わないのか……。我が息子ながら、成長したものだな……。って、いかんいかん、感心している場合じゃない。っく……どうすればあのバカ息子の鼻をへし折れるんだ……?」
ゴンザレスは頭を抱えてしまった。
そうだ……!
俺はあることを思い出した。
【もしかしたら、アラクネーのアリアなら勝てるかもしれないぞ……!】
「アラクネーですかい……? でも、あいつらが協力してくれるか……」
【いや、おれから話してみるよ】
ということで、アリアを呼んできた。
【……ということなんだ、アリア。どうか、ゴンザレスを助けてやってくれないか?】
「ようは、そのバカ息子たちにお灸をすえればいいんですね?」
【そういうことだ】
「まあ、セカイ様が私の戦闘能力を高く勝ってくれているのはわかりました。よろしいでしょう。私におまかせください」
【ほんとか! ありがとう、頼む!】
アリアは、少なくとも俺よりは剣の達人だ。
なんたって、手足が8本もあるのだからな。
それに、必殺の蜘蛛の糸もある。
アリアなら、あの二人を倒せるかもしれない。
アリアは、ソラとリクのもとへと行った。
ちょうど二人は同じところにいた。
一石二鳥だ。
「ソラ、リク、あなたたちに用事があります」
「アラクネー……の、アリアだっけ……? アラクネーが私たちに話しかけてくるとは珍しいじゃない。なんのようなのよ、おばさん」
「……お、おばさん……!? ゆるしません。いいですか? あなたたちは、父親であるゴンザレスさんを困らせている。問題児です……! 私が矯正してさしあげます」
「へぇ……おもしろいこというのね、おばさん」
「私が勝ったら、お二人には親父さんのいうことをきいてもらいます」
「いいわ、もちろん、私たちが勝つもの」
「二人同時にかかってきなさい」
「私だけで十分よ……!」
リクは剣を抜き、アリアに向かう。
アリアは8本の腕で剣をたくみにあやつり、それをさばく。
「ちょっと、その腕、反則じゃない……!?」
「勝てないというのであれば、手加減しましょうか?」
「馬鹿いわないで……! 私がこの国で最強なんだから……!」
――キンキン!!!!
しばらく打ち合うも、いっこうにアリアが負ける気配はない。
アリアは手加減しているのだろうか。
リクが疲労をあらわにする。
「っく…………」
「そろそろ二人でかかってくればどうです?」
「いいだろう、僕が出る……!」
そして、今度はソラも戦いに参加した。
リクとソラの連続攻撃が続く。
しかし、それでもアリアの8本の手足のほうが、手数が多い。
「私たちきょうだいが力を合わせれば、最強なのよ……! これでもくらえ……!」
リクとソラが合体技をはなつ。
しかし、アリアはそれを蜘蛛の糸で絡めとる。
「そんな……! 私たちの必殺技が……!」
「これで終わりですね」
アリアの蜘蛛の糸でぐるぐるにされた二人、そしてアリアの剣が二人の首元を捕らえる。
「っく……そんな、私たちが負けるなんて……」
「ようし、そこまでだ。二人とも、これに懲りたら俺のいうことをきいてもらうぞ。世の中にはな、お前たちよりはるかに強い人がいるんだ……!」
ゴンザレスがやってきて、二人の頭をわしづかみにする。
「げ……父さん……」
「お前たちはこれから、ちゃんとした相手を見つけなさい。そして、遊びまくってないで、ちゃんとした仕事につくんだ……!」
「は、はい……」
二人はその美貌で貢がせていたから、仕事もまともにしていない。
だがこれで、どうにか落ち着いてくれるといいんだけどな……。
「で、でも……!」
「なんだ?」
「僕は僕が一番美しいと思っている。だから、特定の女性を誰も愛せないんだ……!」
「私もよ……!私たち以上に美しいものなんてないもの……!」
「はぁ……!? なにをいっているんだ……」
これは……なかなか厄介だな……。
「だけど、まあ父さんがそこまで言うなら、ちゃんと仕事を見つけるよ」
「よし、よくいった。まあ、今すぐに結婚しろとはいわない。ただなぁ、付き合う相手は一人にしないと」
「うーん、そうは言ってもね……、そうだ……!」
「なんだ?」
「僕たちに考えがあるんだ。これなら、仕事にもなるし、相手も自由だ……!」
「…………?」
そしてリクとソラはなんと――。
――店を開いた。
しかも、リクが開いた店はキャバクラだった。
そしてソラはホストクラブだ。
「これなら、仕事としていろんな人とお付き合いできる……! しかも仕事もちゃんとしてるから、問題ないよね……?」
「お前らなぁ……はぁ……」
ゴンザレスはあきれていて、もはやあきらめムードだ。
それにしても、ホストとキャバクラか……。
まあ、二人にとってはこれが天職かもしれない。
二人は店長兼キャストとして働いた。
二人の店は、ものすごい繁盛した。
「まあ、仕事についてくれたのは立派だと思うが……。前とあまりやってることかわらないんじゃないか……?」
ゴンザレスは頭を抱える。
◆
ちなみに、ソラのホストクラブに、ドワーフのリダフが面接に来たそうだ。
しかし、背も低く、ひげむくじゃらのオッサンは、その場で落とされたらしい。
まあ、どんまい、リダフ。
「なんでじゃ……! わしは男前だぞ……!!!!」
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