第61話 キャサリンの過去だぞ


 ある日のことだ、

 また俺がリシュエンの街を、暇つぶしに散策していると、

 なんと、キャサリンにそっくりの女性を見つけたのだ。

 スライムのリーダー、キャサリン、その体は、当然スライムでできている。

 見た目はほぼ人間に近いが、キャサリンの肌は水色で、どうしてもスライムだとわかる。

 だが、街に歩いていたその女性は、見た目はキャサリンと同じなのだが、ちゃんと人間の皮膚をしていた。

 これはいったいどういうことなのだろうか。


 もしかして、ドッペルゲンガー……?

 他人の空似にしては、あまりにも似すぎている。

 俺はその女性のあとをつけてみることにした。

 女性は、シルビアと名前を呼ばれていた。

 キャサリンじゃないんだな……。


 シルビアはリシュエンの街に住む、ごく普通の女性だった。

 母と父と三人で暮らしていて、薬草をとる仕事をしている。

 俺はこのことがどうしても気になった。

 なら、本人に直接確かめるのがいいだろう。


 俺はユグドラシル王国に戻り、キャサリンのもとを訪れた。

 通訳に、ゴブリンのミヤコを連れていく。


【なあ、キャサリン。今日リシュエンの街で、お前にそっくりの女性をみかけたんだが……、あれはどういうことなんだ? なにか知っているか……?】


 俺がそう尋ねると、キャサリンは答えた。


「ああ、シルビアのことですね」


【なんだ、知ってるのか】


「そうですね……あれはまだこの街にやってくる、少し前の話です――」


 キャサリンは過去のことを話し始めた。



 ◆



 そのとき、キャサリンにはまだ名前はなかった。

 キャサリンはその当時、まだスライムガールに進化する前、スライムヒューマンの状態だった。

 スライムヒューマンは、マネキンのような見た目のスライムだ。

 人間の形をしているが、顔はなく、のっぺりとしている。


 その日、シルビアはレルギアーノ大森林に、薬草をとりにきていた。

 そこに現れたのが、一匹の獣だった。

 ブラッディべアは、薬草をとっていたシルビアに襲い掛かる……!


 そのときだった。

 そこにキャサリンが飛び出した。


「きゃ……!」


 シルビアの代わりにブラッディベアに貫かれたのは、キャサリンだった。


「す、スライムさん……!? そんな……、私のかわりに……!?」


 倒れるキャサリンにかけよるシルビア。

 だが、キャサリンはまだ死んではなかった。

 キャサリンの肉体はスライムだ。

 スライムはすぐに復活すると、ブラッディベアに反撃をする。


 キャサリンが合図を送ると、どこからともなく、無数のスライムたちが集まってきた。

 そして、スライムたちはブラッディベアを取り囲むと、一斉におそいかかる!

 スライムたちは合体し、キングスライムに……!

 そして、体重の増えたキングスライムに押しつぶされる形で、ブラッディベアは倒れた。


 倒れたブラッディベアに、キャサリンがとどめをさす。

 キャサリンがブラッディベアを思い切りパンチすると、ブラッディベアは空のかなたに消えていった。


 ふぅ、と汗をぬぐうしぐさをするキャサリン。

 すると、さっきまで震えていたシルビアが、キャサリンの手をとり、お礼を言う。


「スライムさん……。私を助けてくれたのね……? ありがとう」


 あたまをかいて、照れるキャサリン。

 すると、急にキャサリンの身体が光を帯びた。


 そしてなんと、キャサリンはスライムヒューマンから、スライムガールに進化したのである……!

 キャサリンの見た目は、目の前のシルビアそっくりだった。

 キャサリンの中で、人間の見た目といえば、目の前にいるシルビアしか記憶になかったのだ。


「え……!? わ、わたし……!?」


 目の前に自分そっくりのスライムが現れ、シルビアは驚いた。

 スライムガールとなったことで、喋れるようになったキャサリンは、それに応える。


「わ……! 私、あなたの姿になってるわね……!?」

「わ……! しゃべった……!? あなた、進化したの……!?」

「どうやらそうみたい……。あなたの見た目をお借りしたみたいね……。ごめんなさい、でも、私この見た目きにいっちゃった。だってあなた、かわいいもの」

「ふふ……謝らないで。私も、あなたが私そっくりになって、なんだかうれしい。どうぞ、私の見た目を使ってちょうだい。あなたは私を助けてくれたんだもの。そのくらいのお礼はしたいわ」

「そう、ありがとう。人間さん。……あなた、名前はなんていうの?」

「私はシルビアよ。ふふ、なんだか姉妹ができたみたい。私たち、友達になりましょう?」

「そうね……! 賛成……!」


 キャサリンの性格も、どことなくシルビアに似ていた。

 それは、進化の際にシルビアの魔力を取り込んだのかもしれない。

 こうして、二人は定期的に会うようになったのだ。


 ◆


「……と、まあそんなことがありまして。シルビアとは今もたまに森の中で会うんです」


 と、キャサリンは俺に話してきかせてくれた。


【なるほど、そういうことか。じゃあ、このキャサリンの見た目は、もともとはそのシルビアからもらったものなのか】


「彼女は唯一無二の親友です」


【じゃあ、今度この国にも招待するといい】


「いいんですか!?」


【もちろん、大歓迎だ】

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