第59話 結婚指輪だぞ


 再び俺がリシュエンの上空を散策していると、

 今度は見たことのある人物を発見した。

 市場にやってきていたのは、ラック商会のドウェインだった。

 俺はさっそく、ドウェインの肩をぽんと叩く。


「わあ……!? びっくりした……! って、これは……!? 木……? も、もしかして……。セカイ様ですか……!?」


 俺は木の枝で輪っかをつくって、丸を作り、肯定の意を示す。


「セカイ様、こんなところまで枝を伸ばせたんですね……すごいです」


 俺は地面に文字を書いて、ドウェインとの意思疎通をはかる。


【そういうドウェインは、どうしてここに?】


 なにか仕入れにでもきたのだろうか。

 だが、今俺たちのいる辺りは、高級な店が立ち並ぶ通りだ。

 ドウェインの個人的な買い物かもしれないな。


「実は……こんど、結婚することになったんです」


【そうなのか……! おめでとう!】


「はは、ありがとうございます。でも、それが困ったことになっていて……。実は、この街には結婚指輪を探しに来たんです。だけど、なかなかいいものが見つからなくて……。せっかくだから、彼女には特別なものを渡したいんです……。お金はいくらでも支払うつもりなんです、でもただ高級なものならいいかっていうと、それも違う気がして……」


 なるほどな、特別なものをプレゼントしたいというドウェインの気持ちは、よくわかる。

 まあ、俺は結婚とかしたことないし、彼女もいたことないけどな……はは……。

 ドウェインにはお世話になってるし、なんとか協力してやりたい気持ちもあるな。

 そうだ……!

 俺にいい考えがある。

 俺は、木の枝を丸くして、輪っかを作った。

 ちょうど指輪サイズの輪っかだ。

 そしてそれを枝先から切り落とす。

 俺の、世界樹の身体から作った指輪だ……!

 俺の世界樹の身体は、ユグドラシル鋼とも呼ばれる、特殊な素材だ。

 それによってつくられた指輪なら、きっと特別なものになるだろう。

 俺は完成した指輪をドウェインに手渡した。


「セカイさま……! こ、これは……! セカイ様の身体から作られた、ユグドラシル鋼製の指輪……! こんな貴重なものを、いいのですか……!?」


【もちろんだ】


「あ、ありがとうございます! こ、これは完璧だ……! まさに俺が求めていた、完璧な指輪だ……! これならアスカも喜んでくれるに違いない……!」


 どうやらドウェインの嫁さんはアスカというらしいな。

 きっと可愛い娘さんなのだろう。

 くぅ……うらやましいぜ……ちくしょう。


「はぁ……だけど、気が重いな……」


 ドウェインは急に肩を落としてしまった。

 いったいなんだというのだ。


【どうしたんだ……?】


「それが……実は、まだプロポーズしてないんですよ……」


 ああ、なるほど、これからプロポーズするところだったのか。

 それなら、緊張してあたりまえだよな……。


「でも、セカイ様からもらったこの指輪で、勇気を出していってきます!」


 おう、その意気だ!

 ドウェインはこれから、彼女のもとへ行くというので、俺もあとからつけることにした。

 俺は彼女に見つからないように、なるべく上の方まで枝を伸ばす。

 ドウェインは緊張した面持ちで彼女の家まで歩いていった。


「アスカ……! 話があるんだ、きいてくれ!」

「ど、ドウェイン!? どうしたの、急に……!」

「お、おれと結婚してくれ……!」


 うおおお……言ったな……。

 ドウェインめちゃくちゃ男らしいやつだな。

 俺にはとてもじゃないが、プロポーズや告白なんてできそうもない……。

 くぅ……俺も彼女とかほしい……。


「も、もちろんよ……! うれしい……!」

「やった……!」


 おおおお……!

 成功した……!

 やったなドウェイン。

 俺は木の枝を合わせて拍手をした。

 

「これ、素敵な指輪だわ……!」

「実はこれはね、セカイ様――世界樹様からもらった特別な指輪なんだ。きっと君を守ってくれる」

「そうなのね、ありがとう」


 そして二人は幸せなキスをした。



 ◆



 それから数日して、アスカがある日、買い物に出かけたときのことだ。

 突然、路地裏から現れた男たちが、アスカを取り囲む。

 周りに人気はなく、助けてくれるものはいない。


「へっへっへ、こいつは美人なねえちゃんだ。きっと娼館に売り飛ばせばかなりの値段になるに違いねえ」

「いや、やめて……!」

「おとなしく俺たちの奴隷になりな……!」


 男たちは人さらいの一味だった。

 アスカの腕を引っ張ろうと、男が手を伸ばしたそのときだった。

 アスカの指にはめられていた、指輪が光った。


「な、なんだ……!?」


 そして、指輪から、木の枝が伸びて、男たちの腹部を貫いた。

 ――グサ……!


「ぐぼぁ……!? な、なんだ……!?」

「おかしな力を使いやがって……! 逃げろ……!」


 男たちは倒れた仲間をその場に置いて、逃げ去って行った。


 ――


 ◆


「……と、いうことがあったんですよ」


 と、俺に話すドウェイン。

 なるほど、俺の作った指輪にはそんな効果があったらしい。


「セカイ様のおかげで、うちの嫁は助かりました。ほんとに、感謝してもしきれません」


 と、アスカと手をつないでいるドウェイン。

 二人は俺の木の幹に触れながら、頭を下げた。

 結婚の挨拶とお礼をかねて、二人はユグドラシル王国までやってきていた。


「セカイ様、私を守ってくれてありがとうございます」


 アスカはそう言うと、俺の木の幹にキスをした。

 おいおい……人妻からのキスかよ……。照れるな……。


【これって、浮気にならないよな……?】


「はっはっは、セカイ様なら大丈夫ですよ……!」


 なにが大丈夫なのか……?

 その後、街のみんなでドウェインたちの結婚祝いのパーティーをした。

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