第51話 ????がきたよ


 そのときだった――。


 俺たちの頭上に、巨大な影が差した。

 見上げると、そこには――。


 なんと、ドラゴンがいた。

 それも一匹ではない。

 巨大なドラゴンが、群れを成して現れたのだ。


「な…………!?」


 みな一時休戦し、頭上を見上げる。


 ドラゴンとは、ほぼ神話上の生物と言って差し支えない。

 この世界においてドラゴンとは、ほぼ生きているうちに見ることのない存在だ。

 ドラゴンはこの世界において、圧倒的強者だった。


 ドラゴンひとつで国が亡ぶとはよく言ったものだ。

 目の前にすると、たしかにドラゴンはそれだけの力があると思い知らされた。

 ドラゴンと人間では、人間とアリくらいの力の差がある。

 そのくらい、生き物としての魔力が違った。


 確実に、このドラゴンに逆らったら殺される。

 そういう確信があった。

 その強大な力を持った生物が、何体も頭上に浮かんでいる。

 この状況は、異常としかいえなかった。


 一体何事が起こったのかと、みんなが困惑していた。

 みな、いちように体をこわばらせて、制止している。

 ドラゴンを前にして、動けるものはいなかった。


 まるで蛇に睨まれた蛙。

 俺たちはドラゴンの気分しだいで、全員吹き飛ぶくらいの軽い命だった。

 敵も味方も、ドラゴンを前に凍り付いていた。


 みな、ドラゴンが敵か味方かもわからないから、どうしようもないのだ。

 願わくばこの厄災が、はやく去ってくれと願わんばかりである。


 そのときだった。

 ドラゴンのなかでもひときわ大きく、威厳のある個体が、俺のもとへ降りてきて言った。

 

「やっとみつけました……! 世界樹様……!」

「え…………?」


 名前を呼ばれて、俺は困惑する。

 なぜ、このドラゴンは俺のことを知っているんだ……?

 しかも俺を呼んだ瞬間、ドラゴンから先ほどまでのような覇気を感じなくなった。

 むしろ柔和な雰囲気すらただよってくるくらい、ドラゴンの口調も表情も柔らかい。

 どうやらこのドラゴンに、俺に対する敵対心はないようだ。

 いったいどういうことなんだ……?


「お、お前は……なんなんだ……?」

「あれ? わたくしのことをお忘れですか? 私、以前世界樹様にお助けいただいた、トカゲです! 世界樹様のおかげで、リザードマンに進化した、あのトカゲです! お礼にドラゴナイトを置いていった、あのトカゲです!」

「あ………………!!!!」


 言われて、俺は完全に思い出した。

 そういえば、覚えているぞ……!

 以前、俺がまだ動けない世界樹の身体にいたときだ。

 お腹をすかせて動けなくなっていたトカゲがいた。

 俺はそいつに、進化の実を食わせたんだ。


 そしたらそいつはリザードマンに進化して、ドラゴナイトを置いていった。

 そしてのちに、そのドラゴナイトをモッコロがもっていったんだっけか。

 あのときのトカゲか……!?

 だがどうして、こんな巨大なドラゴンに……!?


「あのあと、私は世界樹の加護のおかげで、ドラゴンにまで進化することができたのです! そして私はなんとドラゴン族の族長になりました。なので、改めてこの大恩を返さねばと、こうして世界樹様を探していたのですよ!」

「そうだったのか…………」


 俺も目の前の敵も、ドラゴンに唖然としてしまっていた。

 いきなりのことすぎて、頭がついていかない。


「して、この金ぴかの鎧をきた、目の前の男はなにものです? どうやらお仲間たちも戦ってるみたいですし……もしかして、こいつ敵ですか?」

「あ、ああ……そうだ……」

「そうですか。世界樹様にあだ名すもの、この私ドラゴンのフランリーゼが許しておけませぬ。こいつ、食っちゃいますね!」


 ドラゴンがいきなりそう言って、大口を開けると、目の前のシュバルク皇帝はあわあわと慌てだした。


「え…………? あ…………? は………………?」


 どうやら状況を理解できていないようすだ。いや、俺もさっぱり理解できていない。

 するとドラゴンは、そのまま大口を開けて、シュバルク皇帝を頭から飲み込んだ。


「ふぅ……これで一件落着ですね。あとは残党狩りといきましょうか?」

「あ、ああ…………」


 正直ドラゴンにドン引きだったけど、おかげで助かった。

 そこから、ドラゴンたちはみな降りてきて、人型に変形した。

 ドラゴン族は人型にも変形できるという神話は本当だったのか……。

 ドラゴンたちは人型に変形すると、俺たちに加勢した。

 そこからはあっという間だった。

 ドラゴンの戦闘力は、群を抜いていた。


 あっという間にデズモンド帝国の軍を退け、俺たちは戦に勝利した!


「うおおおおおおおおおおお!!!! 勝ったぞ!!!! デズモンド帝国の軍隊は全滅だああああ!!!!」


 途中であきらめ、逃げるデズモンド帝国の兵たちを、ドラゴンはみな焼き尽くしてしまった。

 ドラゴンのそれは、戦闘というよりもはや一方的な殺戮であった。

 一匹でも国を亡ぼすほどの力だというドラゴンが、これだけ束になったのだから当然といえた。

 とにかく、俺たちは脅威をしりぞけ、戦いに勝ったのだ!


「ありがとう……えーっと、フランリーゼ」

「いえいえ、なんということはありません。これもすべて世界樹様への恩返しですから」


 フランリーゼは、人型になると、とても美しい少女だった。

 オレンジ色の髪の毛が美しい。

 どうやらフランリーゼは雌のドラゴンだったようだな。


「これはみなさん、世界樹様のお仲間ですか?」


 集まったゴブリンたちを見て、フランリーゼが尋ねる。


「ああ、みんなユグドラシル王国の大事な仲間だ。それと、俺のことはセカイとよんでくれ」

「わかりました、セカイ様。えーっと、では、私たちもこのユグドラシル王国の仲間に加えていただけますか?」

「もちろんだ、ドラゴンたちを歓迎するよ!」

「やったー!」


 俺たちは、祝勝会兼、ドラゴンの歓迎会をすることにした。

 ……っと、その前に。

 戦いに勝ったからには、まだまだやることがある。

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