第50話 戦争だよ


 俺の考えが甘かったと言わざるを得ない。

 俺は、来るもの拒まずで、モンスターたちに実を分け与えた。

 彼らは俺によくしてくれた。

 だから、俺もそれに応えようとした。


 そしてみんな集まってきて、次第に村になった。

 それは次第に街になって、国になった。

 みんな俺を慕ってくれた。


 俺はそれがうれしかった。

 モンスターも亜人も、人間も関係ないと思った。

 グリエンダ帝国のみんなも、本当にいい人たちばかりだった。

 デズモンド帝国の連中も、冒険者たちは別に、そんなことは気にしなかった。

 だが、この世界にはどうしてもわかりあえない相手がいる。


 モンスターを束ねるというのは、つまりそういうことだった。

 モンスターを良く思わない人間もいる、そんなのは少し想像すればわかることだ。

 俺たちがいくら悪いモンスターじゃないと言っても、彼らには関係ない。

 モンスターであるという時点で、わかりあえないのだ。

 モンスターであるという時点で、彼らには憎悪の対象なのだ。

 それはどうしようもなく、どうにもならない。


 だったら、どちらかが滅ぶまで戦うしかない。

 ゆるせないのなら、そうするしかない。

 俺は、守れなかった。

 大事な仲間を守れなかったんだ。

 せっかく俺を慕って、信じてくれた仲間なのに。


 俺はもっと気をつけておくべきだった。

 人間にとって、モンスターがどういう存在なのかを理解しておくべきだった。

 そうすれば、こんなことにはならなかったかもしれない。

 しょせんはモンスターと人間、わかりあえないのだ、それは最初から。

 だったら、戦うしかないじゃないか。

 俺はすっかり平和ボケしていたんだ。


 この世界は、最初からそういうところだった。

 決して平和なんかじゃなく、敵は常に存在する。

 平和というものは、漠然とそこにあるものではなく、自らが勝ち取るべきなのだ。


「全軍、進軍開始――!!!!」


 俺はみんなを率いて、そう叫んだ!

 丘の向こうには、デズモンド帝国の軍団が迫っている。



 ◆



 戦闘が始まった。


 エルフは魔法で攻撃を防ぎ、魔法の弾丸を飛ばす。

 ゴブリンたちはそれぞれに剣を持ち、近接戦闘。

 中には弓を持つゴブリンもいる。

 ヨークは聖剣ゴブリオンを持って戦う!


 ワーウルフたちはその持ち前の肉体で肉弾戦をしかける。

 リーダーであるジョナスを殺されたぶん、ワーウルフたちの怒りはすさまじかった。

 ワーウルフたちの士気はものすごく高かった。


 ラック商会から派遣されている人間たちは、いちおうグリエンダ帝国の国民なので、裏方に回ってもらっている。

 彼らには物資の調達と運搬などをお願いしていた。


 アラクネーはその糸と多数ある足を駆使して、人間ばなれした動きで相手を翻弄だ。

 まるで進撃の●人の立体機動装置のように、縦横無尽に動く。


 オークは戦車のように固い。

 オークは敵の軍隊を、どんどん投げ飛ばして、道を切り開いていった。


 ゴーレムは軍艦のようだった。

 その肉体で弓を受け止め、敵を蹂躙する。


 鬼狼たちはゴブリンの知性と、ワーウルフの肉体を兼ね備えた最強の兵士だ。


 スライムたちも非力ながら戦った。


 ドワーフたちは武器の生産と補給に回った。


 俺も、聖剣ユグドラシルを手にして戦う。


 だがしかし、相手はかなり強かった。

 個々の戦力ではこちらのほうが有利だ。

 だが、相手は群れを成した人間だ。

 

 局所的には勝ってても、大局で負ける。

 いくら木端な兵士を倒しても、相手はいくらでも湧いてくる。

 それだけ大国の軍事力はすさまじかった。


 相手には無限の兵士がいた。

 だがこちらの軍勢は10000にも満たない。

 結果は目に見えていた。

 消耗戦なら勝ち目はなかった。


 次第に、こちらの疲れが見えてきて、押されてくる。

 俺たちは前線をどんどんと下げざるを得なかった。


「くそ……このままじゃ負けてしまう……」

「世界樹様をまもらなきゃ……!」

「どうすれば……」


 相手には大量の兵士がいた。

 魔導兵士に、弓兵、槍兵、騎兵、さまざまだ。

 そして相手だってゴーレムを使ってきた。

 ゴーレムは無生物、モンスターのくくりには入らないのだろう。

 ゴーレムが相手となると、こちらも分が悪い。


 それに、こちらには数体のゴーレムしかいなかったが、相手には100をも超えるゴーレムがいた。

 これじゃあ、こちらに勝ち目はなかった。

 次々に倒れていく仲間たち。


 戦場で、俺も聖剣をふるって戦った。


 しかし、いくら敵を倒しても終わりが見えない。


 そんな中、戦場でひときわ目立っている敵の将軍がいた。

 そいつは金色の甲冑に身を包んでいて、どでかい剣を持っている。

 それはまるで修羅のごとく、敵兵を薙ぎ払っていた。


 俺はすぐに直感した。

 あいつが、敵のリーダーであると。

 向こうも戦場で俺のことを見つけると、すぐに悟ったのだろう。

 俺がリーダーであると。

 そしてどちらからともなく、お互いに剣を交えるべく、接近する。


 俺と奴は、剣を交えた。

 お互いの剣が、うなりを上げる。


 ――キン!!!!


「お前が……! お前が皇帝シュバルクかあああああ!!!! よくも! よくもおおおおお!!!!」


 俺はありったけの怒りをぶつけた。

 こいつがつまらん差別意識を持っているせいで、俺たちの仲間は殺されたんだ。

 こいつがすべての元凶。

 こいつを殺せば、戦いは終わる……!!!!


「ふはははは! いい剣だ! たしかに、私がシュバルクだ! 貴様こそ、なんだ? 貴様、人間ではないか……!!!!」


 たしかに俺の見た目は人間だ。

 俺が一人モンスターに混ざっているのが、不思議に見えたのだろう。


「なぜ人間のくせに、貴様はモンスターに味方する……!? いや……待てよ……。少し匂いが違うな、貴様は人間ではない……!? 貴様、なにものだ……!!!!」

「俺は世界樹さ……!」


 ――キン!

 ――キン!


「ふはは……! 世界樹だと……!? 意味の分からんことを……!!!! モンスターの仲間め、殺してその本性を暴いてやる……!!!!」


 シュバルクの剣は、すさまじかった。

 俺は聖剣ユグドラシルをもってしても、かなり押されてしまっていた。

 っく……このままでは……。


 ――キン!!!!


 俺の剣が、弾かれる。

 聖剣ユグドラシルが、宙を舞う。


 剣は地面に落ち、俺はしりもちをつく。

 俺の首に、剣が差し向けられる。


「さあ、その正体はいかに……!」

「っく………………」


 万事休すか……。


 ふと周りを見渡すと、周りの仲間たちもかなりの数が負けていた。

 このまま俺たちは負けてしまうのだろうか。

 みな、かなり押されていて、戦況は圧倒的に不利だった。

 

「さあ、死ねええええええ!!!! 汚れた魔物の血よ……!!!!」


 俺のもとに、剣が振り上げられる。

 っく…………。


 そのときだった――――。

 

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