第52話 世界樹の葉だよ
デズモンド帝国軍を退けた俺たちは、そのままドラゴンと共に、デズモンド帝国の帝都まで進軍――。
――とはいっても、俺は森から出られないから、お留守番だけど……。
正確には、ヨーク率いるゴブリン軍が帝都まで進軍し、占拠。
デズモンド帝国との停戦交渉に入った。
やつらにも、それ相応の報いを受けてもらおう。
デズモンド帝国はほぼすべての軍事力を失い、その皇帝であるシュバルクをも失った。
デズモンド帝国にはなにも残されていなかった。
停戦協定には、こちらからはヨークが代表として参加した。
デズモンド帝国は、首謀者で生き残りの、ゴーエン男爵が宰相と共に対応した。
すべてを失ったデズモンド帝国は、ユグドラシル王国の属国となることになった。
モンスターを忌み嫌っているような国が近くにあるのも、俺たちとしては危険だからな。
デズモンド帝国を属国化し、無力化する。
まずは協定で、デズモンド教の廃止を決定。
デズモンド帝国は、国教を新たにユグドラシル教とすることとした。
デズモンド帝国の今後の統治は、ヨークに一任することとする。
そしてヨークに変わり、ユグドラシルの町長はドワーフのリダフに引き継がれた。
デズモンド帝国の意識が変わるのはまだ少し先だろうが、これから改革していけばいい。
モンスターたちが街に行きかうようになれば、次第に差別意識もなくなっていくだろう。
その辺は、ヨークの手腕に期待だな。
◆
さて、すべてが終わった。
戦いが終わって、まず俺たちは、死んでしまった仲間たちを弔うことにした。
ワーウルフの族長、ジョナス。
彼は立派な男だった。
俺たちはジョナスにかたき討ちがすんだことを報告した。
ジョナスの遺体を、世界樹の根本において、俺たちはそれを囲み、語り掛ける。
「ジョナス……お前はこの国の英雄だ。その姿は、死んでも絶対に忘れない。永遠に語り継ぐからな……!」
涙をこらえながら、ヨークがそう語り掛ける。
俺も、思わず涙を流してしまう。
ジョナス……いいやつだった。
くそ……なんで死んでしまったんだ。
なぜ、俺たちはジョナスをまもれなかったんだ。
戦いには勝ったが、それだけが悔やまれる。
ジョナス以外にも、何名か死人が出た。
俺たちは彼らの遺体を世界樹の根本に集めた。
これから彼らを世界樹の根本に埋め、弔ってやるつもりだ。
「みんな……立派に戦ったよ……」
そのときだった――。
大きな地震が発生した。
「な、なんだ……!?」
揺れが収まると、ひらひらと、世界樹の葉っぱが落ちてきた。
まるで、死者を弔うかのように、葉っぱが死体を覆い隠す。
「きれいです……」
それにみとれるエルフたち。
そのときだった。
世界樹の葉のなかでも、とびきり大きな葉があった。
その大きな葉は、形もほかの葉とは違っていた。
その葉がジョナスの死体の上に、ひらひらと落ちる。
すると――。
なんと葉っぱは光を帯びて、ジョナスの死体の中に吸い込まれていった。
次の瞬間、ジョナスの傷がすべて癒え、首が生え、完全な状態でジョナスが復活した。
ジョナスはゆっくりと起き上がる……。
「な…………!?」
「あれ……? 俺はなにをしていたんだ……? ここは……?」
まさかの出来事に、誰もが驚いた。
まさか、死体が蘇ることがあるなんて……。
そんなこと、あっていいのだろうか……?
いや、今はとりあえず喜ぼう。
ワーウルフたちがジョナスに駆け寄っていって、抱きしめる。
「ジョナスさま! 生き返ってくれたんですね! よかった! ほんとうによかった……!」
しかし、いったいこれはどういうことなんだ。
もしかして、あの世界樹の葉が原因か?
だとしたら……。
あの特殊な形状の世界樹の葉は、他にも何枚かあった。
いくつかに1つ、この特殊な形状の世界樹の葉が存在するようだ。
俺はその世界樹の葉を拾い、他の死体のもとにもっていく。
俺が世界樹の葉を死体にかざすと、なんと他のものも蘇った。
「これは……!」
「すごいです! セカイ様! 世界樹の葉をつかえば、みんな蘇るんだ……!」
「あ、ああ…………」
これは驚くべき新事実だった。
まあ、世界樹のしずくに治療効果があるから、これもその仲間なのか?
だが、それにしても死人が生き返るなんて……ぶっとんでいる。
そんな神にも似た力、あってもいいのか?
しかし、今までにこんな形状の世界樹の葉はみたことなかったんだがな……?
すると、俺は信仰ポイントがとんでもないことになっているのに気付いた。
それとともに、俺の世界樹レベルも20に上がっていた。
「そうか……! デズモンド帝国を占領したことで、国民と信徒が増えて、レベルがあがったんだ!」
なるほど、世界樹レベルがあがったことで、世界樹の葉が進化したということか。
それなら納得がいく。
「だけどこれは……とんでもない力だ……」
俺は自分に与えられた力の規格外さを、あらためて実感した。
◆
それから、俺たちは戦死した仲間をすべて生き返らせた。
俺たちは祝勝会兼、ドラゴン歓迎会、兼、ジョナスたちが蘇った祝いをした。
ようやく平和を勝ち取った俺たち。
これでしばらくはなにもないといいんだがな……。
だが、俺のこの世界樹の葉の力は、少しいきすぎている気もするな……。
死者を生き返らせるなんて、あってはいけないことだろう。
これは、しばらくは仲間内の秘密にしておいたほうがよさそうだ。
このとき、俺はまだ知らなかった。
のちにこの世界樹の葉が、とんでもない事件を巻き起こすことになるなど――。
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【あとがき】
さて、これにて転生したら世界樹だった件、第一部完となります。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
まだまだ物語は続きます。
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