第44話 文明開化だよ
あれから、俺たちの国では今、テレビやパソコンが大ブームとなっている。
ゴブリンたちの間では、ゴブリンハンマー4000というゲームが流行っている。
ゴブリンハンマー4000というのは、ダークファンタジーの世界を舞台にした、リアルタイムストラテジーゲームだ。
このゲームの中では、様々な種族を選んでプレイできる。
ゴブリンたちはもちろん、ゴブリン種族を選んでプレイしているみたいだ。
みんな、自分たちの種族が画面の中で活躍するのを喜んでいる。
「うおおおおお! ゴブリンはやっぱり最強だぜ!」
「おいこのゴブリン、俺ににてねえか?」
「馬鹿野郎、これは俺だ!」
しかも、インターネットにつながっているから、オンライン対戦もできるのだ。
しかし、こっちの世界と現代日本とでオンライン対戦できるって、いったいどうなってるんだ……?
時系列とかもいろいろおかしいし……。
まあ、気にしてもしかたないか……。
それから、ワーウルフたちの間では、FPSゲームが流行っていた。
オーバーウィッチという、協力対戦型のシューティングゲームが人気のようだ。
ワーウルフたちは血気盛んで、喧嘩早いやつらが多い。
そんな彼らの気性と、FPSが合っていたのだろう。
ワーウルフたちは、オンライン対戦に夢中になっていた。
だけどオンライン対戦でへまをして、味方から煽られたりもしていた。
ちなみに、ボイスチャットができるように俺がヘッドセットなどを創造してわたしてある。
『この雑魚が……! 死ね……!』
ボイスチャットから聴こえてくるのは、中学生くらいのまだ声変わりしていない子供の声だ。
その煽りに、狼たちは本気で怒り、反応している。
「くそが! てめえが雑魚だろ!」
夢中になるのもいいが、ほどほどにしろよな……。
相手はしょせん、中学生なんだから……。
まあ、俺もニート時代はオンライン対戦に夢中になったから、気持ちはわからないでもない。
一方で俺は、創造したゲーミングパソコンで、シミュレーションゲームを楽しんでいた。
俺が創造でつくったのは、普通に買えば50万円くらいする、最新型の超ハイスペックパソコンだ。
ニートだった俺は、型落ちの古いパソコンで遊んでいた。
だが、今となっては、創造でいくらでもいいスペックのパソコンが作り出せるわけだ。
ニート時代、遊びたくても遊べなかった、重いゲームも楽々遊べてしまう。
せっかくだから俺も、創造でつくったパソコンを使い倒すことにした。
ニート時代、俺はバイトもしていなかった。
まあ、親からたまにもらえる小遣いくらいしか収入がなかった。
だから、5年ほど前の型落ちのパソコンで遊んでいたんだ。
でも、本当は最新のパソコンで最新のゲームが遊びたかった。
その夢が、今かなったのだ。
俺が買ってインストールしたのは、最新のシミュレーションゲームだ。
パラドールゲームというメーカーが出した、最新の国造りシミュレーションゲーム「ヨーロピアンユニバーシティ4」だ。
俺がニート時代をしていた前世では、まだ発売前だったゲームだ。
だけど、発売前から面白そうだと思って楽しみにしていたゲームでもある。
俺はこのゲームが発売する前に、死んでしまったからな。
残念な思いをしていたんだ。
だけどどうやら、この世界からインターネットで繋げる向こうの世界は、俺が生きていたころから少しだけ進んだ時間軸のようだ。
だから、こうやって遊べなかった最新のゲームが遊べる。
最高だ。
そしてこの国造りゲームを選んだのには、もう一つわけがある。
俺がただ遊びたかったからだけじゃない。
このゲームは、地政学や政治などをかなり複雑に再現した、完成度の高いシミュレーションゲームだ。
だから、実際の国造りの参考にもなるのだ。
俺は政治なんかのことにはずぶの素人だ。
だから、これからユグドラシル王国を運営していくのに、このゲームはうってつけの教材だった。
俺はゲームからいろんなことを学んだ。
それから、女性陣に人気だったのは、ゲームではなくドラマだった。
特に恋愛ドラマが人気のようだ。
「セカイ様! 先週のこれ見ましたか? ヒロインと主人公がいい感じなんですよ~」
「そ、そうなのか……」
エルフたちにおすすめされてちょっと見てみたけど、俺にはあまりよくわからなかった。
恋愛ものって、少し苦手なんだよな……。
ていうか、異世界でも女性たちは恋愛ドラマにハマるんだな……。
さすがは恋愛ドラマだ……強い……。
それから、ドラマだけじゃなく、音楽だって人気だった。
音楽は生活に欠かせない。
とくに俺たちユグドラシル王国と音楽は斬っても切れない関係だ。
今までは、木でできたような楽器をつかって、簡単な音楽しかなかった。
祭りのときにみんなで踊るときなんかも、簡単な打楽器に合わせて踊っていた。
だが、電化製品という文明の利器がもたらされたおかげで、音楽の幅はかなり広がる。
俺が創造したギターを、商店に置いておいたら、飛ぶように売れた。
ゴブリンの若者たちの間では、今ちょっとしたバンドブームだ。
アラクネーはその多足を活かして、複雑なピアノ演奏を披露してみせた。
そして音楽は奏でるだけじゃない。
街の真ん中には巨大なスピーカーを置いて、みんなで踊れるようにした。
音楽は、最近ではもっぱらJPOPが人気だった。
特にYONAOSIというグループが人気のようだ。
やはりゴブリンたちは踊れる曲のほうがいいのかな。
オークたちにはメタルが人気だし、けっこう種族によって好みの違いがあるようだ。
エルフたちはアニソンを気に入っていた。
それから、街の百貨店には、創造スキルでつくった化粧品を置いてみた。
化粧品がほしいというのは、女性陣たちからの強い要望だった。
ゴブリンたちは化粧を覚え、みんなかなり可愛くなった。
もともと、顔のいいゴブリンたちも多いけど、さらに可愛くなったな。
そして驚くべきは、エルフたちだ。
エルフたちはもともと彫刻のように整った顔だちだ。
それが最新のコスメで、最強の顔面に仕上がっている。
YouTubeを見て、最新メイクなんかを研究しているようだ。
そのせいで、エルフたちの顔面偏差値が限界突破していた。
まあ、目の保養になるし、こちらとしてはとてもいいものを見せてもらっているという感じだ。
一部のオシャレな男性ゴブリンの中では、メンズメイクが流行ったりもした。
バンドをやってるゴブリンたちはXに憧れてV系メイクをするものもいた。
とにかく、みんなそれぞれに文明の利器を楽しんでくれているみたいだ。
みんなを幸せにするという俺の思いは、達成されているように思える。
それから、やはり現代の生活に欠かせないのが、スマホだ。
俺は国民全員に、スマホを配った。
中にはスマホ依存症になるようなやつもいた。
Twitterで異世界なうとかつぶやいてるやつもいた。
なんか変なアカウントに絡まれて、それをブロックすればいいのにレスバしてるやつもいた。
とくにワーウルフにスマホを持たせてはいけなかった。
ワーウルフたちはいつも5chでレスバしたりしている。
そろそろ本気で取り上げる必要があるかもしれない……。
ちなみにドワーフたちがはまっているのは、シミュレーションゲームだ。
とはいっても、俺のはまっている経営戦略シミュレーションゲームのようなものとは違う。
農業主になったり、工房を経営したりするような、そういう地味なものが人気だった。
農場シミュレーターや、工場シミュレーターにのめりこむオッサンたち。
どうやら、仕事をしたりするのが好きみたいだ。
ゲームの中まで仕事みたいなことはやりたくないけどな俺は。
ドワーフたち、まるでドイツ人みたいなゲームの趣味してやがる……。
ドイツでは、こういったお仕事ゲームが大人気だとよくネットでも話題になっている。
あと、スマホの登場で一番変化があったのは、自撮りだ。
ゴブリンたちは、自慢の筋肉を自撮りしていた。
そしてそれをなんと、あろうことかインスタグラムに投稿しやがった。
さすがに異世界の写真はまずいんじゃないのかと、俺はすぐに削除させようとした。
だって、異世界のものが映り込んだら、さすがにやばいだろ?
なんか変な騒ぎになっても面倒だしさ。
だけど、俺のその心配は杞憂だったようだ。
ゴブリンたちは、凄腕のコスプレイヤーとして認識された。
ゴブリンたちの投稿は、瞬く間に拡散された。
だけど、誰もそれが異世界だとは思わなかったようだ。
まあ、そりゃあそうか……。
『背景までこっててすごい! ほんものの異世界みたいだ……!』
ゴブリンたちの投稿にはそんなコメントがついた。
うん、だってほんものの異世界だもの……。
『すごいクオリティのゴブリンコスプレですね! まるで本物みたいだ……!』
だって本物だもの……。
だけどそんなこと言えるわけもなく……。
ゴブリンたちは、コスプレイヤーとして人気になっていった。
『撮影会とかやらないんですか? コミケとか参加しないんですか?』
ときかれても、こっちは異世界だから参加できるはずもなし。
ゴブリンたちは、あくまで個人で撮る専門です、人前には出ませんというスタイルでやっているということにしている。
あまり詮索されても、面倒だしな……。
それから、インスタグラムで有名になったのはゴブリンたちだけではない。
さらに有名になったのは、エルフたちだ。
なにせエルフたちの顔面は、これ以上ないほどの整っている。
だから、それがメイクして写真をあげた日なんかにゃ、とんでもない騒ぎになる。
異世界基準でもエルフたちの顔は、美しい。
だからあっちの世界では、まるでCGのようだと、もてはやされた。
エルフたちのフォロワーはすごい勢いで増えた。
なんかモデルの仕事とかのオファーもきているみたいだけど、全部断っている。
まあ、そりゃあ、こっちは異世界だからな。
みんな承認欲求を満たされて、幸せそうだった。
それから、もちろんティックトックも流行っていた。
エルフたちはどのSNSでもバズりちらかしていた。
YouTubeチャンネルを開設して、ゲーム実況をやるようなエルフもいた。
なんか……もうなんでもありだな……。
とにかく異世界のこいつらは、SNS適正が高すぎる。
ゴブリンたちの中にも、自分でCGを作ってVtuberになったりするやつまでいた。
俺はすこしパソコンやスマホを与えただけなのに、みんな瞬く間に文明に染まっていった。
それがいいことなのか悪いことなのかは、わからない。
だけど、みんなが今は幸せそうにしているから、よかったのかな。
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