第42話 能力の使い道だよ


 それにしても、よくよく考えると、俺のこの世界樹としての能力はなかなかに不思議なものだ。

 信仰ポイントさえあればなんでもできるなんて、まさに神のような能力。

 俺は最初、女神にただ刺されても死なない身体が欲しいと願っただけだ。

 ここまでのチート能力を願ったわけではない。

 だけれど、なぜ、女神はなにを考えて俺にこんな能力を与えたのだろう。

 まあ、俺には知る由もない。


 さて、ユグドラシル教ができたおかげで、俺の信仰ポイントはとんでもないスピードで溜まりつつあった。

 これなら、今まで以上になんでもできるようになる。

 まず俺が最初にやったのは、カジノのさらなる改良だ。

 ユグドラシル教からの信仰ポイントもすさまじいが、カジノから得られる信仰ポイントも馬鹿にならない。

 カジノにさらなる投資をしておけば、ますます安定して信仰ポイントを得られるからな。


 カジノに一台だけあったパチンコ台を、100個ほど増やす。

 それだけ増やしても、まだまだあまりあるくらいに、俺の信仰ポイントは増えていた。

 それからカジノにはスロットマシンも導入した。

 カジノの収益はさらにうなぎ登りになることだろう。


 さて、俺の信仰ポイントはもはや使い切れないほどまでになっている。

 ここで問題になってくるのは、これの使い道だ。

 創造メニューは理論上、なんだって作れる。

 それは、家電製品などの現代的なものでもだ。

 ただし、作るものの複雑さによって必要な信仰ポイントは多くなるけどな。


 今まで、家電などは必要な信仰ポイントの多さから、断念していた。

 だが、ユグドラシル教をつくったおかげで、今ならそれも作れる状況だ。

 俺は、時計の針を進めることにした。

 この国に、文明をもたらす。

 これには少しの決意があった。


 俺の一存で、この世界に電化製品を持ち込んでいいものだろうか。

 電化製品を持ち込むということは、文字通り歴史を進めることだ。

 できるからといって、やっていいものでもないだろう。

 だが、これも女神が俺に与えた力だ。

 これでなにかまずいことが起こるなら、女神が忠告していたはずだろう。

 女神がなにも言わずに俺にこんな力を与えたということは、別にこの程度のこと、この世界にとっては問題ないということだ。

 女神は俺に、あまりにも強大すぎる力を与えた。

 それはなにも考えずに与えたわけではないだろう。

 俺は、この力を与えられた意味を考えなければならないな。


 俺は、この規格外の力を、この国のみんなのために使おうと決めていた。

 この世界に、こんな力を持って、俺が送り出された忌みを考えた。

 それは、この世界に平和と幸せをもたらすことじゃないか?


 あの女神は、いわばこの世界を管理している立場にあるのだろう。

 そんな女神が、この世界を破壊するような力を俺に与えるだろうか。

 否。

 もし俺がこの力を悪用し、この世界を陥れるようなら、女神は黙っていないだろう。

 女神からすれば、俺もちっぽけな存在だろう。

 その気になれば、女神は俺の力を取り上げることだってできるはずだ。


 でも、女神はなにも言わずに、俺を信じて送り出した。

 なら、俺がこの世界ですべきことは、この世界を幸せにすることだ。

 力を持っているものは、持たざる者に分け与える義務がある。

 俺は前世から、そう思っていた。

 いわばノブレスオブリージュの精神だ。


 前世での俺は、どちらかというと、持たざるものだった。

 引きこもりのニートで、才能にも、女にも恵まれず、金もなく、さみしい暮らしをしていた。

 俺は、ずっと世の中のせいにしてきた。

 努力しなかったのは俺なのに、俺は世間や親、環境のせいにばかりしてきた。

 それは実際、半分は環境のせいでもあるとは思う。


 俺はそんなふうに、世間を恨みながら、世間にどうにかしてほしいとも思っていた。

 こんなに恵まれない俺は、もっと世間から補助を受けてもいいはずだと思っていた。

 自分だけが貧乏くじをひかされているような、そんな気持ちでいた。

 世間は俺を助けるべきだと、そう思っていた。


 ベーシックインカムとかで、俺に金をよこせ。

 そうすれば、俺も少しは働く気になれるのに。

 政府は俺に女を斡旋しろ。

 そんなふうに思っていた。


 世間の富豪やうまくいっている奴らは、俺にもっと分け与えるべきだろ。

 そう思っていた。

 そう思って、うまくいってる連中を妬み、恨んでいた。

 

 だけど、今の俺はこれ以上ないほどに恵まれている。

 俺はこの世界に転生して、今は恵まれた側になってしまった。

 俺はずっと、恵まれた連中に対して、憤りを覚えていた。

 なんで奴らはあんなに恵まれているのに、俺たち底辺を助けてはくれないんだ……?

 そんな俺が、今は恵まれた立場にいる。

 

 だったら、俺のやることは一つだ。

 恵まれないやつらを、助けることだ。

 この世界にも、かつての俺のように、恵まれていない人間がいるだろう。

 彼らはそれを、世間のせいにしているだろう。

 だったら俺は、それを助けたいと思う。


 今の俺の力があれば、いろんな人を幸せにできるだろう。

 俺は、そのために力を使っていこうと思った。


 自分ができないことは人にやれというべきではない。

 だから、まずは俺が実践しようと思うのだ。

 恵まれた立場になったら、俺は迷いなく下のものたちを助ける人でありたい。

 それはかつて、俺が求めたことだから。

 この世界に幸せをもたらすことで、俺はかつての俺を救済しているような気持ちになれた。


 まずは手始めに、この国をもっとよくしたい。

 俺はこのユグドラシル王国を、さらに幸せな国にしたい。

 だから、そのためには迷わない。

 俺は歴史の針を進めることにした。


 そう、俺は信仰ポイントを使い、創造メニューで電化製品を作ることにしたのだ。

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