第41話 宗教だよ
晴れて、俺たちの街はユグドラシル王国としての新たな道を進み始めたわけだが。
国というからには、貴族も必要になる。
貴族というのは、本来は領地をそれぞれに任せて、分割統治するためのものだ。
だけどまあ、いまのところはそこまでこの街も広くない。
だが、さらに街が広くなったり、人数が増えると、俺だけでは管理しきれないだろう。
今のうちに貴族を決めておくのもわるくない。
バマク王からは、俺はいくつかの貴族を決める権限をもらった。
俺のもとには爵位のメダルがいくつかある。
このメダルは、グリエンダ帝国の貴族としても効力をもつそうだ。
つまり、俺がメダルを渡した相手はすくなからずの権限を持つことになる。
とはいっても、ここの住民はみんな魔物ばかりだ。
魔物がいきなりグリエンダ帝国の街に入ると、警戒されるだろうから、まあ悪用するようなやつはいないんだけどな。
俺はそれぞれの種族の族長に、貴族の爵位をわたすことにした。
そして、それぞれの種族ごとに、一応分割統治してもらう予定だ。
すでに俺一人では管理しきれないほどの人数だからな。
まあ、もともとそれぞれの種族ごとに、あるていどの規律があったから、前となんらかわらない。
ゴブリン族の族長、ヨークに爵位を授ける。
エルフ族の族長、エルに爵位を授ける。
ワーウルフはジョナス。
鬼狼族はエメラルド。
ドワーフはリダフだ。
◆
さて、一通り王様たちのもてなしも済んで、俺たちは夕食を囲んでいた。
「みごと、ユグドラシル王国の王となられましたこと、おめでとうございます、セカイ様」
グリエンダ帝国の大臣、ヒカムが俺にそう話しかける。
俺はどうもと答える。
「でも、セカイ様はこの世界を統べる世界樹様なのですよ? それが、しょせん一国の国王だなんて……。しかも、グリエンダ帝国の中のユグドラシル王国でしかないわけでしょ? むしろ、それってどうなのかしら? 降格じゃない? セカイ様に、失礼だわ」
と、エルフのエラが異議を申した。
たしかに、そう言われてみれば、そうなのか……?
自分が偉いという感覚があまりないから、よくわからないんだよな。
エラの失礼ではないかという発言に、慌てたのか、大臣は、すぐに機転をきかせて切り返した。
「い、いえ! 決してそんなことは……! セカイ様は、世界樹でありながら、王であるということですよ。世界樹兼、王様、より偉くなられたということですな。はっはっは」
大臣は、失礼があってはいけないと、かなり焦っていたようすだった。
向こうとしても、俺の世界樹という存在は、偉大で、無視できないものだ。
だから、万が一にも敵対したくないという思いがあるのだろう。
必死にこちらに悪印象を与えないように、気を使っているのがうかがえる。
まあ、俺としては別に、多少の失礼があったくらいで気にしないし、敵対する気もないんだけどな……。
それに俺としては、王様になったほうが、より強い信仰を集められて、信仰ポイントがたまるから、現状に文句はない。
まだまだ信仰ポイントでやりたいことはたくさんあるしな。
「ふん、ものはいいようね」
エルフたちとしては、世界樹はこの世の理のすべて、世界樹こそが尊き一番だという思いがあるのだろう。
エルフたちは、あまりグリエンダ帝国の連中をよくはおもっていないようだった。
そんな話をしていると、ちょうどいいとばかりに、立ち上がる男がいた。
男の名はユリカム。
彼はグリエンダ帝国の神官だった。
ユリカムはここぞとばかりに話を切り出す。
「それでしたら、心配はいりませんぞ。世界樹様はいわば、神様のようなものです。なので、より格を高めるため、ここらで、世界樹教を立ち上げるというのはいかがでしょうか……?」
「世界樹教……?」
突然飛び出したびっくりワードに、俺も食いつかざるをえない。
なんだそれは。
「世界樹様を中心とした、世界樹様を崇めるための、世界樹様のための宗教です……!」
「はぁ」
「みたところ、このユグドラシル王国には、これといった宗教がありませんよね?」
「ああ、まあ……そうだな……」
そもそも、魔物には宗教なんていう概念はないだろうし……。
これまで外部との接触もなかったから、既存の宗教も入ってくる余地はなかった。
そもそも、なにもいわなくても、ここのみんなはすでに俺のこと崇拝しているようなもんだしなぁ……。
「なので、世界樹様教……いえ、ユグドラシル教を立ち上げるのですよ! 今日本日この場所で!」
と、ユリカムは興奮して息をまく。
でも、たしかにわるい思い付きではないかもしれない。
信仰ポイントをためるなら、むしろ宗教がこれまでなかったほうが不自然なくらいだ。
きちんと宗教を名乗って、信者を増やしていけば、さらなる信仰ポイントの増加が期待できる。
「でも、いいのか? あんたは神官なんだろ? その、グリエンダにも既存の宗教があるんじゃないのか? それの邪魔をするようなことになるんじゃないか……? それを、あんたが推し進めるのは、どういう意図なんだ」
「問題ありません。グリエンダの宗教は多種多様。他国から持ち込まれた宗教が、ごちゃまぜになって存在しているのが、今の状況です。なので、そもそもグリエンダには国教などはないのですよ。だから、私も神官とは名ばかりで、行事ごとのさいに、きめられた儀式をやるための存在なのです。私個人が特定の宗教を支持していたりもしないのですよ」
「ふーん、そうなんだ。けっこう緩いんだな」
どうやらグリエンダの宗教事情は、日本とよく似ているようだった。
特にみんなが信仰している宗教というものはないらしく、季節のイベントなどは、それぞれ、イベントごとに、違う宗教から拝借して、儀式をやっていたりするのだとか。
ようはごった煮のちゃんぽん宗教国家だ。
そのへん、めちゃくちゃ日本に似ているな。
「ですがこのユリカム、世界樹様の活躍に感動いたしました! 実はわたくしの母も、世界樹酒で病気が治ったのです。わたくしはこれまで、神など信じてもおりませんでした……。神官という職につきながら、惰性で仕事のためにやってきたのです……。ですが、私はセカイ様こそが神様だと思いました。ぜひ、セカイ様のお力や考えを、もっと広めたい、そう思ったのです。なので、ぜひ私をユグドラシル教の神官として、お迎えください……!」
「そ、そうか……。なら、お願いしようかな。よし、ユグドラシル教立ち上げだ……!」
「うおおおおおおおおお!」
俺がそう言うと、国のみんなも立ち上がって、拍手した。
ユリカムは、今後グリエンダにユグドラシル教を広める活動をしてくれるようだ。
これなら、俺の信仰ポイントも増えるに違いない。
俺たちがユグドラシル教立ち上げで盛り上がっていると、バマク王も口を開いた。
「そうじゃな。ユグドラシル教……たしかにすばらしいアイデアかもしれん。セカイ殿の偉功を世界に知らしめることにもなろう。よし、決めた……!」
バマク王は立ち上がった。
「ユグドラシル教を、我がグリエンダ帝国の国教とする!」
すると、みんなも一斉に「うおおおおおおおおおお」と歓声がわく。
「い、いいんですか!?」
俺は驚いた。
さすがに今できたばかりの宗教を国教にするなんて、大胆すぎる。
「いいのですよ。我が国には決まった宗教がなかった。これはちょうどいいことです。宗教があれば、国民の団結はより強いものになる。それに、セカイ様を崇めるための組織を作ることは、もはや必須ですわ! このようなすばらしい力を持っているセカイ様のことを、国民全員に知らしめるのです!」
いつのまにか、バマク王からの呼び名がセカイ殿から様に変わっている……。
やはり俺は神様扱いだからなのか……?
「ま、まあ……そういうことなら、王様より神様のほうが上って感じがするし……いいかもですね」
エルフたちも納得のようだ。
「たしかに、これには俺も賛成ですね。今後のことを考えても、ユグドラシル教という形があったほうが、やりやすい」
と、モッコロ。
モッコロはそれから、俺にある意見を伝えてきた。
「そうです、セカイ様。世界樹酒の流通を、しぼりませんか?」
「というと……?」
「現状、世界樹酒は金さえだせばだれでも手に入るようになっています。一応、かなり高額で、並みのものでは手に入らないようにはなっていますが……。ですが、これは非常に強力な、いわば蜜です。甘い蜜には虫がたかるのがつきもの。ようは、このような度の過ぎた技術、これは争いの種にもなりかねません。そこで、私は考えました。世界樹酒の流通を、ユグドラシル教徒の間にしぼるのです。そうすれば、変なやつらに渡るのを防げますし、信者獲得にもつながります!」
「なるほど……! それはたしかに。独占商法というわけだな。さすがは大商人モッコロだ」
ということで、今後俺の肉体由来の製品は、すべてユグドラシル教徒の間だけの流通にとどめることにした。
こうしたおかげで、世界樹酒をつかって病気を治したいという人物がこぞってユグドラシル教に入信することになるのは、もう少し先の話だ。
それから、とりあえずは、このユグドラシル王国の全員がユグドラシル教の信者となった。
もちろん、バマク王をはじめとする、グリエンダ帝国の面々もだ。
あとはユリカムがグリエンダ帝国でユグドラシル教をどれだけ広めてくれるかだな。
いきなりバマク王が、今日からユグドラシル教が国教だと宣言しても、それが根付くまでにはまだまだ時間がかかるだろうし。
まあ、気長に待つか。
それから、俺の信仰ポイントは、前までとは比べ物にならないくら、加速度的に増えることになる。
やはり、信仰ポイントを効率よくためるには、宗教がポイントだったようだ。
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