第40話 王国だよ
モッコロがセカイが王都に来れないということを、王様に伝えると――。
バマク王は、すぐに馬車を用意させた。
「ふむ、セカイ殿が来られないというのなら、こちらから行くまでだ」
「王様、なにもそこまでしなくても……」
王を気遣い、執事のセバスチャンはそう言った。
「いや、セカイ殿は命の恩人だ。一度会って、どうしても礼を言わねばならない。それに、世界樹の街、ユグドラシルには興味もある。前から一度訪れてみたいと思っていたのだ」
ユグドラシルが観光地としてにわかに人気を博していることは、王の耳にも届いていた。
王は、ユグドラシルへ向けて旅立った。
◆
「……と、いうことで、バマク王をお連れしました」
俺の前に、モッコロが現れた。
モッコロの後ろには、荘厳な馬車がひかれている。
馬車から、一人の初老の男性が降りてくる。
バマク王、いかにもな偉い人物だとわかるような服装で、杖をついて降りてきた。
バマク王は、俺に一礼すると、握手を求めてきた。
「これはこれは……あなたがセカイ殿か」
「ええ、バマク王。ようこそ、ユグドラシルへ」
俺は王と握手を交わす。
「いやぁ、それにしても、素晴らしい町だ。まさか森の中に、こんな街があったとは……」
とりあえず立ち話もなんだから、集会所へと案内する。
集会所の一番立派な椅子に、王を座らせる。
「セカイ殿、この度は、どうしてもお礼を言いたくて参った。私の病気を救ってくれて、本当に感謝している。ありがとう……」
王は、俺の手を握り、誠心誠意、お礼を言ってきた。
俺はなにかしたつもりはないんだけど、礼を言われて悪い気はしない。
「いえ、王様が元気になられてなによりです」
バマク王がやってきたことで、街は軽いお祭り騒ぎだった。
人間の王とやらを一目見ようと、みんな集会所に野次馬があつまる。
俺たちは、バマク王を、とびきりのもてなしで歓迎した。
ありとあらゆる酒と娯楽を提供した。
王と露天風呂にも入ったし、かなり距離が縮まったと思う。
「いやぁ。すばらしい町だ。こんなに歓迎してもらって、ありがたい限りだ。セカイ殿には、きちんと礼をせねばな」
「いえ、お礼なら、さっきもうおっしゃってくださいましたではないですか」
「いや、言葉だけではない。なにかきちんと形になるものを用意せねばな」
夕食の席で、王はそんなことを言った。
そして、王はとんでもないことを口にする。
「そうだ、王位はいらないかな……?」
「は…………?」
「セカイ殿が、王になるというのはどうだろうか」
「王様、な、なにを……?」
王曰く、ここレルギアーノ大森林は、法律上、グリエンダ帝国に所属していることになるらしい。
そこでだ、王は俺に王の称号をくれるというのだ。
この世界の法律上、王は自分の領地の貴族に、王号を与えることができる。
そして、国の中に別の国を作り、帝国とすることができるのだ。
「つまり、セカイ殿はユグドラシル国王となるのだ」
「は、はぁ……」
「なに、悪い話ではないだろう。ここはもはや街というより、独自の文化を築いた国のようなもの。私としても、君たちにグリエンダ帝国に属せとは言えない。なら、別の王国を立ち上げてしまったほうがいいだろう?」
「な、なるほど……?」
「グリエンダ帝国の爵位をあげてもよかったが、それだとセカイ殿と対等ではないだろう? 私はセカイ殿と対等な友人になりたいのだ。これから、同じ王として、よろしく頼む」
「は、はい……。ありがとうございます」
俺は、バマク王から、王として認められることとなった。
正式な手続きは、おいおいということになるが、ここにユグドラシル王国が誕生した。
「これで、グリエンダ帝国が後ろ盾にもなりますね」
と、モッコロ。なるほど、モッコロは初めからこれを狙って、王を連れてきたな。
食えないやつだ。
ちなみに、俺が王として認められたおかげかしらないが、急にまた信仰ポイントが増幅した。
やはり、権威を高めると、信仰ポイントがつくようだ。
俺としては、王国など名乗る気はなかったが、信仰ポイントが付くと思ったから、異論はなかった。
それに、この街は、バマク王のいうとおり、もはや街と呼ぶには大きくなりすぎている。
今後、他国と関わると、いろいろと問題も起きてくるだろう。
だったら、この街を守るためには、もっと後ろ盾が必要なのも事実だ。
だから、バマク王の申し出は、願ってもないことだった。
「よし! ここにユグドラシル王国の樹立を宣言する……!」
俺は、街――いや、国のみんなに高らかに宣言した。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
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