第34話 観光客がきたよ


 ある日、街に一人の人間がやってきた。

 見張りのものが、その人間を見つけて、話をきいてみた。


「私、旅の吟遊詩人の、シエルというものですが……。中に入れてもらえませんでしょうか?」


 敵意はなさそうなので、街の中に入れることにした。

 シエルを、とりあえずこの前作った集会所兼公民館に案内する。

 集会所には、簡単に寝泊まりできる設備もあった。


「それで、シエルはどうしてこの街に?」

「ええ、私は旅の吟遊詩人なのですがね、絵を描くのも好きなんです。それで、なにかいい景色はないかと、いつも探してるんですけど、ちょうど馬車からものすごく大きな木が見えたもので、この森の中を歩いてきたわけです」

「なるほどな」


 世界樹はいまや周辺の諸国からも見えるほどに、巨大だ。

 世界樹が気になって見に来る人がいても、おかしくないだろう。

 まあ、この森は危険だとされているし、よほどの猛者じゃないと近寄らないんだけどな。

 シエルは一人旅をしているくらいだし、それなりに腕もたつのだろう。


「しばらく、この街に滞在してもいいですか?」

「もちろんだ」


 俺たちは、久しぶりの来客を歓迎した。

 シエルにはこの街の料理や、酒をふるまった。

 そして、ゴブリンたちの踊りを見せたりもした。

 美人のエルフたちにお酌をされて、シエルは真っ赤になりながらも、うれしそうだった。


 シエルも、お返しとばかりに、いろいろ歌をきかせてくれた。

 シエルの歌に合わせてみんなで踊ったりなんかして、かなり仲が深まった。

 それから、シエルはこの街の風景を絵に描いていた。

 大きな世界樹がバックにある街の風景は、絵にするとかなりキレイで、神々しかった。

 そして、この街のようすを伝える歌も作っていた。


 そんなシエルは、1週間ほどで街を去っていった。

 彼はまた、いろんな街を旅するのだろう。


 

 ◇



 シエルが街を去って数か月後、また街を訪れる人間がいた。

 今度は冒険者パーティ4人組だ。


「ここが世界樹の街かぁ」

「ん? ここを知っててきたのか?」

「ええ、吟遊詩人のシエルさんと言う人に話をきいてきたんです」


 なんと、冒険者たちは、シエルを知っているという。

 彼らの話によると、シエルとは酒場で知り合ったらしい。

 そこで、シエルから絵を見せてもらったり、この街のことをうたった歌をきかせてもらったそうだ。

 そして、この街に興味を持って、実際に来てみたくなったらしい。


「まあ、そういうことなら、ゆっくりしていってくれ」

「ありがとうございます!」


 冒険者たちはしばらくのあいだ、俺たちの街を堪能した。


「いやぁ、素晴らしい街ですね。温泉は最高だし、女の子は可愛いし、料理はうまい!」

「それはどうも」


 冒険者たちはお礼にといくばくかの金を置いて、帰っていった。

 それからしばらくして、何度かぽつぽつとまた来客があった。

 みな、シエルから評判をきいたというものばかりだった。

 よほどシエルの宣伝はうまいのだろう。

 まあ、たしかにシエルのあの絵と歌を見れば、みんな想像力をかきたてられるものだ。


 そのほかにも、実際に来たあの冒険者たちも、さらに評判を広めていった。

 どんどんと口コミで、この街のことが知られるようになっていった。

 おかげで、観光客があとを絶たない。

 さすがに集会所だけでは宿が足りないので、俺は街に宿を建てることにした。

 4000ポイントを使って、広めの宿を建てる。


 それから、街にやってきた人たちが買い物できるように、いくつか商店を建てた。

 これまでも、街の中だけで、個人経営の店をやってるものがいたり、市場が開かれていたりはしたが、今回は本格的な店舗を建てた。

 しかも一店舗だけではなく、複合型の商業施設だ。

 ようは、現代風に言えばデパートのようなもの。

 俺は8000ポイントで複合型商業施設を建てた。


 店では、世界樹酒、エルフ酒、ゴブリン酒などを売ったり、ドワーフたちが作った武器、防具、道具などを売ったりした。

 それからモッコロの商会からも、いくつか品をおろしてもらったりした。

 観光客ように、木彫りの人形なども作って売り出した。

 街にたくさん人が来るようになって、店はたいへん繁盛した。

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