第29話 ドワーフたちの工房だよ


 そういえば、世界樹になっている実だが、あれを食べるとみんな進化するので、俺はあれに進化の実と名付けることにした。

 まあ、世界樹の実って名前でもいいけど、どっちでもいいか。

 あれから、エルフたちも進化の実をいくつか食べてみた。

 すると、エルフたちの見た目にはあまり変化がなかったが、耳が少し長くなっていた。

 ステータスを見てみると、種族がハイエルフになって、魔力量が増していたようだった。


 ドワーフたちにも食べさせたところ、ドワーフたちはエルダードワーフに進化した。

 すこし頭身があがって、動きやすくなったと喜んでいた。

 前は無骨なオッサンばっかりだったけど、少し若く見えるようになって、男前になった気がする。


 オークたちも、グレートオークに進化し、さらに身体が大きくなった。

 相変わらず、頭のほうはあまりよくないみたいだ。


 進化の実は、スライムなどの下等な生物が口にすると、何度か進化する余地があるみたいだ。

 例えばスライムだと、スライムからスライムキング、そしてヒューマンスライム、スライムガール及びスライムボーイといったふうに、何段階か進化する。

 だが、エルフのようなもともとが高度な種だと、せいぜいハイエルフに進化するくらいで、そこで進化は打ち止めのようだ。


 ゴブリンたちも、もっと進化の実を食べれば、さらに進化するのかもしれないが、とりあえずは今のままで十分だろう。

 高度な進化をするには、それなりの個数を食べる必要もあるようだし。

 それに、あまりむやみやたらに進化させるべきでもないと思った。

 進化種ばかりになって、進化前の種が減ると、生態系に影響があるからだ。

 それに、進化したモンスターがかならずしも友好的とも限らないからな。


 エルドウィッチ教のように、厄介な連中に実をあげてしまうこともある。

 だから、前のようにやたらと実を配ったりすることはやめにした。

 とれた実は、街の倉庫に大切に保管し、必要なときだけ使うことにしよう。


 

 ◇



 ドワーフたちは、街の中に、工房を作りたいと言ってきた。


「わしらが使うための工房じゃ。いいじゃろう?」

「もちろん、かまわないが」


 許可を出すと、ドワーフたちは自分たちで木を伐り、組み立て、巨大な工房を一瞬のうちに作り上げた。

 武器や道具を制作するだけでなく、建築の技術も一流のようだ。

 ゴブリンたちが作った家とは、一線を画すクオリティの家ができた。

 ついでに、ドワーフたちがじぶんたちで暮らす家も、じぶんたちで作ったようだ。

 工房は、武器屋とひとつづきになっていて、ドワーフたちが仕事をできるようになっている。

 なかなか見栄えのいい工房ができた。


「さて、わしらはここで、これからいろいろ武器や道具を作ったりすることにする。武器などの流通は、おぬしらにまかせてよいかの」

「もちろんだ」


 作った武器は、街の中で流通させたり、モッコロの商会に売ったりしよう。

 

「よし、さっそくなにか武器を作ろうかの。いい素材はないかの……」


 とはいっても、倉庫には木くらいしかない。

 いい武器を作るには貴重な鉱石などがいるだろうが、あいにく持ち合わせがない。

 どうしようかとドワーフたちが倉庫を物色していたので、俺はあることを思いついた。


「そうだ、これなんか使えるかな?」


 俺は、自分からとった世界樹の枝を、ドワーフたちに手渡した。

 世界樹になってから、俺の枝の強度はさらに増していた。

 これなら、そこそこいい素材になりそうだと思ったのだ。

 ドワーフたちが俺の枝を目にすると、彼らは目を丸くして、じろじろと枝をみわたした。


「こ、これは……! これは伝説の素材、ユグドラシル鋼じゃないか……!」

「伝説の素材……!?」


 

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