第19話 世代交代だよ


 モッコロと取引をするようになってから、村はかなり便利になった。

 まず香辛料、調味料が手に入って、食の幅がひろがった。

 今までは味気ない食事だったが、料理をするようになって、さまざまな味のものが食べられるようになった。

 これにはみんな大喜びだった。


 それから、作業の効率もよくなった。

 くわや斧、スコップなどの道具を輸入したからだ。

 今までも、木製の簡単な道具はあった。

 だがどれもゴブリンたちが森にあるものだけで作った簡単なものだった。

 やはりちゃんと製品として作られたものにはかなわない。


 他には、人間が作った様々な種類の酒も持ち込まれた。

 今までもゴブリンの作った伝統的な酒、ゴブリン酒があったが、やはり人間のつくったものはうまい。

 ゴブリン酒も好きだが、酒は多ければ多いほどいいからな。

 ゴブリンたちも人間の酒を気に入ったようで、みんな昼間から飲んだくれていた。


 そんなふうに村のみんなは新しい生活を堪能していた。

 

 それからまた数年が経ち、俺はかなり巨大な大木に成長していた。

 これまではただの大きな木という感じだったが、今の俺は大きさだけでなく、どこか貫禄もあった。

 自分でいうのもなんだが、神々しい感じすらあると思う。

 今までは世界樹と言われても、なんだかなぁという感じだったが、ようやくその名がしっくりくるような見た目になった気がする。


 ここ数年で、俺は大きく成長を遂げた。

 村もかなり発展し、さらなる広がりを見せている。

 もはや小さな街といってもいいだろう。


 俺はこの森の中で、まちがいなく一番というほどの大きさになっていた。

 ていうか、もはや世界一といってもいいんじゃないのか、これ。

 

 それにともない、森の範囲も広がっているようだった。

 俺からなにかエネルギーでも出ているのか……?

 街が広がっていけば、そのうち森を破壊してしまうのではないかと懸念していたが、どうやらその心配はいらないようだ。

 いまではここら一帯は超広大な大森林となっており、レルギアーノ大森林と呼ばれている。

 なぜそんな名前になったのかというと、伝説に伝わる龍の名前が由来だそうだ。

 詳しくはわからない。


 ちなみに、ゴブリンやワーウルフたちもかなり歳をとり、世代交代をしている。

 リンダと、世界樹の巫女であったミヤコが結婚したのだ。

 二人の結婚式は村をあげて盛大に行われた。

 余興でベンジャミンが裸踊りをやったのが懐かしいな。


 ミヤコとリンダはけっこう歳が離れていたが、二人は相思相愛だった。

 若い嫁さんをもらったということで、リンダは村の男どもからやっかみを受けていたっけな。

 今は、二人の子供であるヨークが村のリーダーをやっている。


 それから、ゴンザレスとアンリの間にも子供が生まれていた。

 二人の子供は運動神経も抜群で、容姿も整っているので、村のアイドル的な存在だった。

 双子の姉弟で、名前はリクとソラだ。


 そして、なにより驚くべきことは、ベンジャミンの相手だった。

 ベンジャミンの結婚相手は、なんとゴブリンではなくワーウルフだった。

 ワーウルフの側の世界樹の巫女であるミミコと結婚したのだ。

 だから、生まれた子供はゴブリンとワーウルフのハーフということになる。

 子供ができるのか、俺は疑問だったが、どうやら無事に健康な子供が生まれた。


 二人の子供はエメラルドと名付けられた。

 エメラルドは、緑色の毛並みをもった、ワーウルフによく似た姿をしていた。

 エメラルドは新種の、鬼狼きろうという種族として名付けられた。


 そのあと、ベンジャミンとミミコに感化されたのか、何組かゴブリンとワーウルフのカップルが村で生まれていたな。

 今では鬼狼も立派な村の仲間だ。


 ワーウルフのリーダー、ワルフも、同じくワーウルフの美女、ハンナを嫁にもらっていた。

 二人の子供であるジョナスが、今はワーウルフのリーダーをやっている。


 リンダたち親の世代は、みんなもう爺さんばあさんになっていて、ほとんど引退している。


 それから、オークの数もこの数年でかなり増えた。

 今では村で15体くらいになっている。

 さすがはオークの繁殖力だ。

 初代オークのオルグは、歳をとって死去してしまった。

 今はオルグの子孫たちが村を守っている。



 ◇


 そして俺にも変化があった。

 ある日、俺の身体が光り輝いた。

 そして、ぐん、ともう一段階、大きくなったのだ。

 しかも、なにやらパワーがみなぎっているのを感じる。

 いったい俺の身に、なにが起こったのだろうか。



 ◇

 

 

 そんなある日のことだ。

 また、村をたずねてくる一団があった。


 森の奥から現れたのは、30人ほどのエルフの集団だった。

 エルフはみな、見た目は若い女性で、似たような顔をしている。

 異様に整った顔というか、まるでAIがモデリングしたような、綺麗すぎる顔をしていた。

 正直、現実味がない。


「おや、この街になんのようかな……?」


 エルフたちを出迎えたのは、ワーウルフの若い男、シュウという名前のやつだった。

 昔はゴブリンもワーウルフも、もっと好戦的だったのだが……、今では俺がなるべく温厚に済ませるようにと言ってあるので、こういった対応になっている。

 客人は、なるべく最初は敵対しない方向で、もてなすことになっている。

 だが今回は、人数が人数だ。

 それに、エルフたちからはただならぬようすだという雰囲気を感じる。


「なんのようかな、はこっちのセリフです……!」

「えぇ……?」


 だが、温厚なのはこっちだけで、エルフのほうはそうではないようだった。

 エルフたちは、いきなり血相を変えて怒り出したのだ。


「世界樹様の周りにこんな街があるなんて、きいていません……! あなたたちは、いったいなんなのですか……!?」


 どうやらこれは、穏便には済まなさそうだぞ。

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