第18話 モッコロがきたよ


 エルドウィッチ教を退けた翌朝、世界樹の村に、モッコロがやってきた。

 さすがに見張りからの連絡が途絶えたから、心配になってきたのだろうな。

 村のみんなは、たずねてきた人間に警戒の念を強めた。

 そりゃあそうだ。

 ただでさえ、モンスターからすれば人間は敵だ。

 それに、昨日の今日でエルドウィッチ教に襲われているからな。


 村のみんなは、モッコロたちに武器を向けた。

 モッコロは両手を上げて、戦いの意思がないことを示す。


「人間……!? なんのようだ……!」

「まってください。私は敵意はありません」

「なに……!?」

「みなさんはこの世界樹をここで守っている……違いますか?」

「そうだが……」

「実は、私もこの世界樹にすくわれた一人。なので皆さんの味方です。私は世界樹に危害を加えるつもりはありません、むしろ、世界樹を守りたいのです」


 モッコロがそういうと、リンダがみんなに武器をおさめるように指示した。

 リンダはまだモッコロを警戒しながらも、話をきくつもりになったようだ。

 訝しみながら、モッコロに尋ねる。


「どういうことだ。人間が……?」

「実は、この森の土地は私の管轄内でね。世界樹の周りには、見張りを付けていました。昨日やってきたような連中から守るためにね」

「そうなのか……!? じゃあ、俺たちのことも見張ってたのか……?」

 

「そうなります。この村のことは前から認知していました。みなさん、特に世界樹へ危害を加えるようすもない……むしろ世界樹を守ろうとしていたので、不干渉を貫いていました。

 

 みなさんはモンスターで、私は人間、下手に近づいても警戒されるだけと思ったのでね。

 ですが、昨日、私たちの見張りはエルドウィッチ教によって殺されてしまいました……。やつら、思っていた以上にこの世界樹に固執しています。


 やつらは想像以上の戦力で、攻めてきました。おそらく、やつらはまた、さらなる武力を持ってやってくるでしょう。そこで、事態を重くみた我々は、みなさんと協力しようと考えました。どうですか? おたがい世界樹を守りたいものどうし、協力するのは」


 モッコロは、そんなふうにまるで練習してきたかのように、すらすらと長セリフを述べた。

 おそらく賢いモッコロは、今回のことを機に、村と交流をはかろうとしているのだろう。

 この村は、すでにかなりの文化を築いている。

 ふつうの状況なら、モンスターと人間が手をとるなんて、あり得ない話だ。

 だが、昨日のことがあったから、という口実になる。

 モッコロはもしかしたら、わざと見張りを殺させた……? いや、それはさすがに邪推がすぎるか……。

 モッコロの申し出は、たしかにもっともな話だった。

 リンダも、すこし頭を悩ませたが、いい返事を返した。


「そうだな……。たしかにお前のいうことはよさそうに聞こえる。世界樹様を守りたい気持ちは同じだ。だが、他になにかメリットはあるか? 人間に騙されるのだけはごめんだ」


 すると、モッコロはポケットから、なにやら取り出した。

 そして、箱の中から、なにかを手に取りだした。


「これは……?」


 モッコロはそれをリンダに鼻に近づけると、得意げな顔をしてみせた。

 リンダは匂いを嗅いで、顔をしかめる。

 あれは……コショウ……?


「香辛料です。どうですか? これは、人間たちの間では高値で取引されているものです。あなたたちモンスターは、町にも入れないし、お金もない。高い知能があり、こうして村を作るまでになっても、市場には参加できない。だが……。私と取引しませんか?」

「取引……?」

「私はこう見えて、商人なんです。私と手を組めば、この村と貿易をしてさまざまな物資を取引できますよ。そうすれば、きっとこの村もさらなる発展をするでしょうね」

「たしかに……それは面白そうな話だ。だが、お前になんのメリットがあるんだ? 俺たちには取引できるようなものはあまりないと思うが……? 人間はなんでも持ってるだろう? 俺たちに提示できるものなんて……」

「ありますよ」


 すると、モッコロは、村の倉庫を指さした。

 倉庫の外には、狩りで得たモンスターの骨などが置かれていた。


「あなたたちワーウルフは、非常に高い狩りの能力がある。それは、人間にとっては魅力的です。ぜひ、あなたたちの狩った獲物の、毛皮なんかを売っていただきたい」

「なるほど……それなら、俺たちにも用意できる」

「それから、ゴブリンさんたち、あなたたちは野菜を育てていますよね? それも、商材になるでしょう」


 ちなみに、最初は俺の根っこから野菜を作っていたけど、今では野菜の種からいろいろ作っている。

 最初の野菜は俺の根っこからとって、そのあとそこから種をとって、植えればまた増えるからな。

 とにかく、今ではかなりの種類の野菜が、大量に育てられている。


「それに、スライムさんたちは綺麗な水を提供できる。意外と、人間の世界では綺麗な真水は貴重なものなんですよ? スライムによって浄化された水なんて、人間にはなかなか手に入りませんからね。アラクネーのみなさんは、上質な衣服や布を提供できる。ほら、この村の価値がいかに高いか、理解できたでしょう?」

「たしかに……それはあんたの言う通りかもしれないな……。よし、取引成立だ。あんたと手を組もう」


 リンダとモッコロは、硬く握手をした。

 それから、リンダの村長の家に入って、さらに詳しい話をつめる。

 リンダは、巫女を通じて俺と話せることも、モッコロに話した。

 すると、モッコロはぜひ俺と話したいと言ってきた。

 ということで、ミヤコが通訳してくれて、俺とモッコロで話をすることになった。


「これはこれは、世界樹様、その節は、私を助けてくれてありがとうございました。私はあなたのおかげで、大商人になることができました。この御恩は忘れません。いつか返したいと思っていたとことです」

「いやいや、こっちこそ、モッコロには助けられているよ。もう十分返してもらってるさ。看板を立ててくれたり、エルドウィッチ教から守ってくれたり、ありがとうな」


 俺がそう答えると、モッコロは感動のあまり涙を流して喜んだ。


「あと、俺から聞きたいんだが……」

「はい、なんでしょう?」


 去り際に、俺から気になっていたことをきく。


「モッコロがこの村に不干渉を貫いていたのは、こうなることを予測していたのか……? この村が、いい取引相手になるって……。そしてこの村があれば、俺を守りやすくなるって。そのために、ゴブリンたちを追い払わなかったのか……?」


 俺がそうたずねると、モッコロは不敵な笑みを浮かべて言った。


「さあ、どうでしょう。それは少々、私を買いかぶりすぎですね。そんなこと、思いもつきませんでしたよ」

「どうだかな」


 ということで、モッコロと村での共同防衛と、交易が始まった。

 見張り件連絡約として、モッコロのところの部下が何人か、村に移住してくるそうだ。

 

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