第9話 ゴブリンがきたよ


 その日は酷い大雨だった。

 森の奥から、雨から逃げるようにして、ゴブリンの集団が現れた。

 そしてみんなで一斉に、俺の木の下に逃げ込んできたのだ。

 俺はすでに15メートル級の大木になっていたから、下にいれば多少は雨がしのげる。


「よし、ここなら雨もしのげる……!」


 ゴブリンのリーダー的なやつがそんなことを言う。

 ゴブリンって喋れるのかな……。

 このリーダーのやつだけかな。


「それに、この木はなんだか神々しくて、不思議な力を感じる。よし、ここに新しい村を作ろう……!」


「ん…………?」


 俺は今、訊き間違えじゃなければ、村を作るときこえたのだが……?

 え? 俺の木の下に村つくるの……?

 俺、村にされちゃうん……?


 雨がやんだころ、ゴブリンたちは作業を始めた。

 周辺から木を切って、集めてきたり、俺という木を中心に、村を作る作業をし始めた。

 マジで、俺村にされちゃうみたいだ……。

 いやまあ、いいんですけどね……。

 ていうかむしろ、暇してたところだから、ゴブリン眺めてたら暇つぶせるし。


「おい! もっと木材が必要だ。集めてこい……!」


 ゴブリンのリーダーがそう命令を下す。

 どうやら俺は村の中央の木ということで、俺は切られないですむみたいだ。

 俺を活かした感じで、俺の周囲に家を建てていくらしい。

 まあ、俺が斬られないならいいかな。

 そうだ。せっかくだから、手伝ってやろう。


 俺も、かなり枝が多くなってきていた。

 誰にも伐採されないものだから、少々バランスも悪くなってきている。

 俺は不要な枝を、いくつか地面に落としてやることにした。


 ――ボトン。


「おお……! なんだこれは……! この木が俺たちを歓迎しているのか……!? とにかくこれはいい。ありがたく使わせてもらおう。ご神木に感謝だな」


 どうやら俺の枝は、他の木よりも質がいいみたいで、加工もしやすく、頑丈だと評判だった。

 俺の木は村長の家や、公民館に使われるみたいだ。

 ゴブリンたちの建築は、ものすごいスピードで進んでいった。


 そしてあっという間に、ゴブリンの村が完成したのだった。


「よし、ここが俺たちの新しい故郷だ……!」

「ゴブゴブ!!!!」


 ゴブリンたちが喜びの声をあげる。

 なんだかこうして上から見ていると、微笑ましいな。

 ゴブリンたちに妙な親心のようなものが芽生えてきた。

 彼らにはぜひここで発展していってほしいな。


 夜になり、ゴブリンたちは村が出来たことによる祭りを始めた。

 火をかこって、踊ったり酒を飲んだりしている。


「そうだ。村が無事に出来たことで、ご神木さまにお礼をしたい」


 お、なんだなんだ。


 ゴブリンのリーダーが立ち上がると、酒を俺のもとにもってきた。


「これは我々ゴブリン族に伝わるゴブリン酒です。どうぞお納めください」


 そういって、ゴブリンは俺の根本に酒をかけてくれた。

 うん、これは美味しい。

 いやぁ……ずっと動けずに暇だったから、娯楽がほしかったんだよな。

 またこうやって酒を飲める日が来るなんて……。うれしい。


 ゴブリン君たち、ありがとうなぁ。

 ゴブリンたちに幸あれ……!

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