第7話 商人がきたよ


 しがない商人であったモッコロ=ボルトは、キャラバンからはぐれて森の中に迷い込んでしまった。

 しかしそのモッコロを救ったのは、一つの木の実だった。

 森の中に、7メートルほどの巨木があったのだ。

 その木は光り輝いていて、あきらかに周りの木とは一線を画していた。

 瀕死のモッコロはその木からもたらされた木の実により、生き返った。


 復活したモッコロはドラゴナイトという宝石を持ち帰ったのだった。

 街に着いたモッコロは、この奇妙な体験を周りの人に話してきかせた。

 この話は、のちに童話「商人と木の実」として語り継がれることになる――だがそれはまた別のお話。


 モッコロは街につくと、商人としての道を再び歩き出した。

 置いて行かれたキャラバンの中には裏切りものがいたらしく、モッコロはわざと置いて行かれたのだった。

 そこでモッコロは以前のキャラバンとは縁を切り、新しく商会を立ち上げることにした。

 元出となる金に、あてはある。


 森から持ち帰ったドラゴナイトを売ると、とてつもない値段がついた。

 それだけで2、3世代は遊んで暮らせるというほどの金だ。

 だがモッコロはその金をさらに増やそうとした。

 そこはやはり商人の血である。

 それに、この金は自分で稼いだものではない。


 あくまであの例の神木から持ち帰ったものだ。

 だからモッコロは、あの神木にこの利益を還元せねばと思っていた。

 そう、これは恩返しのためでもあった。


 莫大な元手をもとに、モッコロはあっという間に商人として頭角を現していった。

 それはなぜだろうか、と疑問に思ったことがある。

 モッコロは以前はただのしがない商人だった。

 それが最近、一気に商談が上手く行くようになったのだ。


 不思議に思ったモッコロは、ステータス鑑定に自分を出した。

 すると、不思議なことがわかった。

 モッコロのスキルに、世界樹の加護(UR)というものが追加されていたのだ。

 モッコロのもともとのスキルは商人Lv5(R)だった。

 この世界では原則としては一人一つしかスキルを持っていない。


 それが、どうして自分だけスキルが二つもあるのか。

 心当たりとしては、あの森での出来事しかなかった。

 あの森で食べたあの木の実が原因だろうとモッコロは考えた。


「世界樹の加護かぁ……そうか、あの木は世界樹だったんだな……!」


 モッコロはそう納得した。

 世界樹の加護の効果はすさまじかった。

 モッコロの運のステータスが3倍にも膨れ上がっていたのだ。

 世界樹の加護の効果はそれを持つ人物によって変わる。

 例えばポコット村のアルトの場合であれば、剣術に恩恵があっただろう。


 そこから10年の月日が経った。

 モッコロは一つの商業ギルドを束ねるまでに出世していた。

 そして大金を得たモッコロには野望があった。


「そろそろいいだろう……金も溜まった」


 モッコロは、あの世界樹のあった森を丸ごと買うことにしたのだ。

 あの森を商会のものにしてしまえば、誰にも邪魔されることはない。

 もちろん、世界樹の恩恵をひとりじめにしたいという下心がないわけではない。

 だが、これは自分を出世させてくれた世界樹へのお返しの気持ちだった。


 世界樹とはいえ、あそこにあのまま置いておけば、誰かの悪意によって害される可能性がある。

 そこで、モッコロは土地ごと買って、保護しようとしたのだ。



 ◇



 俺はあれから10年ほどで9メートルほどになっていた。

 かなり背が高くなって、見晴らしがいい。

 いつものように森でのんびり暮らしていると――。


 一人の人間が俺のもとへやってきた。

 そして俺に話しかけてくるのだ。


「世界樹さま……! 私は商人のモッコロです。もう安心ください! 私がこの土地を手に入れました。なので、もう世界樹さまを害そうとするものは排除できます! これはささやかなお礼です……!」


 などと、俺に向かっていってくる。

 そういえば、なんだか見覚えがあるな……。

 そうだ、この前助けた商人の男かと気づく。

 以前はがりがりだったのに、恰幅がよくなっていて気が付かなかった。


 そうか、わざわざ恩返ししにきてくれたんだな。

 ありがたいな。

 俺は感謝の意をしめすために、その場に一つ木の実を落とした。


「これは……世界樹様。ありがとうございます。この木の実はお近づきのしるしということでいいんでしょうか? とにかく、今後とも私をお見守りください」


 なんか手を合わせられた。

 俺は神社か……?

 まあ、悪い気はしないけど……。


「この木切るべからずという看板も建てさせていただきますね。これでこの木を切ろうという不届きものはいなくなるはずです」

「おお、それはありがたい」



 ◇



 それからしばらくして、俺のもとに人間の集団がやってきた。

 こんどはなにか宗教団体のような恰好をしている集団だ。

 そういえば、前にもこいつら来たよな……?

 たしかエルドウィッチ教とかいうやつらだったはずだ……。

 こいつらもお礼しにきてくれたのか?


 だが、違った。


 そいつらは俺を、根っこから掘り返そうとしてきやがったのだ。

 屈強な男たちが俺を囲んで、スコップで掘り返そうとしてくる。


「わあ……おい! やめろ! やめてくれええええええ!」


 エルドウィッチ教のやつらは、こんな会話をしていた。


「このご神木はこんなところにあってはいけません。本部に持ちかえって、大切に育てるのです……! ようやく見つけたこの地、逃すわけにはいきません!」


 どうやらやつらの話をまとめると、数年前に俺に助けられたやつがあることないこと吹聴しやがったせいで、俺はご神木としてエルドウィッチ教であがめられているらしい。

 そして俺をどうしても手に入れようと、この場所を探していたらしい。

 くそ、やっかいな奴らに目をつけられたな……。


 このままでは怪しい宗教団体に連れ去られてしまうと思っていたところ……。

 以前俺の土地を買ったといっていた商人のモッコロがどこからともなく現れた。


「あなたたち! なにをやっているのです!」


 モッコロはちゃんと俺に見張りを付けていてくれたみたいだ。

 モッコロの私兵たちが宗教団体を取り囲む。


「やべえ逃げろ……! くそ、あきらめないからな……!」


 武器を向けられると、エルドウィッチ教のやつらは一目散に逃げていった。

 どうやらモッコロのおかげで助かったようだな。


「ありがとうモッコロ」


 まあ、お礼を言っても俺の声はきこえないんだけど。


「無事ですか。世界樹様。くそう……何者なんだあいつらは。世界樹様を掘り起こそうとするなんてけしからん。これは警戒を強化せねば……」


 とりあえず、俺はモッコロのおかげでしばらくは無事みたいだ。

 だが、これから俺はどうなってしまうんだ……?

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