第2話 スライムがきたよ
「あー喉渇いたな……」
若木になってから数日が経過した。
雨も降らず日照りが続いていたので、そんな感想が出た。
ここは無人の森のなか、近くに村はあるようだが、水をやってくれるような人間もいない。
「あの少年、水やりにきてくれないかな」
とはいえ、柵を作ってもらっただけでも十分だ。
少年にそこまで求めるのも無理な話だ。
水がないと、植物は育たない。
そろそろ喉が渇いて限界だというころ。
俺に近づいてくる小さな影があった。
ぴょこん、ぴょこん。
「あん……?」
俺のもとへやってきたのは、一匹の小さなスライムだった。
若木が枯れかかっているのがわかるのか、スライムは若木に水をかけた。
スライムは、いわば水分の塊である。
自分の身体を若木にぶつければ、水をやることなど容易い。
スライムは「きゅいきゅい」と若木に体をすりつけると、水分を分け与えてくれた。
「お、おい……俺に水をくれるのか……?」
俺は伝わるとは思わずにそうつぶやいた。
すると、スライムはまるでそれに反応するように「きゅい」と鳴いた。
スライムは動物というより、むしろ植物などに近い、下等生物だ。
だからなのかはわからないが、どうやらスライムには俺の言っていることがわかるようだ。
「なんて優しいスライムなんだ……。でも、いいのか? そんなことをしたらお前の身体が小さくなってしまうだろ?」
水を分け与えたことで、スライムの身体は一回り小さくなっていた。
とはいえ、スライムにはそんなことさして問題ではない。
再び湖などの水分のある場所にいけば、もとの大きさに戻るだろう。
「きゅいきゅいー!」
まるで、遠慮せずにもっと飲めといわんばかりに、スライムは若木に水をやる。
「なんていい奴なんだ……お前! ありがとうなぁ……。自分の身も顧みずになぁ……」
俺は心からスライムに感謝した。
俺が喜んでいるのがわかると、スライムもしあわせな気持ちになって、嬉しくて飛び跳ねた。
「きゅいきゅいー!」
それから、スライムは数日おきに水をやりにきてくれるようになった。
どこかで水分を補給しているのか、毎回やってくるときにはそこそこの大きさに戻っていた。
「うう……ありがてえありがてえ。おかげで俺はぐんぐん伸びるよぉ……」
そうしている間にも、若木は順調に成長していた。
スライムのおかげである。
俺は祈った。
どうかこのスライムに幸あらんことを――と。
◇
一方その頃。
世界の若木から少し離れたところに、小さな村があった。
村の名前はポコット村。
ポコット村では成人の儀式が行われていた。
この世界では14歳になると、こうして成人の儀が行われる。
街から司祭がやってきて、村の子供たちにスキルを授けるのだ。
スキル、それは神から授かるギフトのようなもの。
14歳になるとスキルを授かり、そこから優秀なものは冒険者になったりする。
ポコット村の少年、アルト=ギルバートも、今日ギフトを授かる、未来ある少年だった。
そう、このアルト、若木が踏まれないように柵を作ってくれたあの少年である。
「俺にはどんなスキルがもらえるのかな……」
アルトは自分の未来に、心躍らせていた。
そんなアルトに水を差すように、村のいじめっ子であるグルドがやってきた。
「おいアルト。あまり調子に乗るなよ? お前みたいなカスはどうせろくなスキルじゃないんだ。剣聖のスキルを授かるのはこのグルド様だ。わかったな?」
グルドはそう言いながら、アルトの肩をこれでもかという強い力で掴んだ。
彼はいつも、そうやってアルトのことをいじめてくる。
アルトはあまり力も強くなく、村での立場も弱かった。
アルトの両親は単なる農夫だった。
一方でグルドの父はポコット村の村長だ。
アルトはなにも言い返せずに、悔しい思いをするだけだった。
「う、うん……そうだね……」
そしていよいよ、アルトがスキルを授かる番になる。
街からやってきた司祭が、アルトの名前を呼ぶ。
「では次、アルト=ギルバートくん。前へ」
「はい……!」
司祭のもとへ行き、水晶に手を当てる。
アルトの頭上から、神々しい光が差した。
「今、スキルを授けました。ステータスを開いてごらんなさい」
「はい……!」
アルトはおそるおそる、ステータスを開いて、自分のスキルを確認する。
「ステータスオープン!」
名前:アルト=ギルバート
スキル:世界樹の加護(UR)
「こ、これは……!」
URと書いてある文字に、アルトは驚きの声をあげた。
スキルには、NからURまでのランクが設定されている。
URはあらゆるスキルの中でもトップに存在するスキルだった。
「これは、きいたこともないスキルだ……! しかもUR……。すごいぞ、アルトくん。おめでとう!」
司祭はアルトの背中を押して、称えた。
スキルは一生に一度のものだ。
このスキルのランクで、ほとんど人生が決まるといっても過言ではない。
URのスキルを引き当てたということは、アルトの人生はほぼ安泰ということだ。
アルトの両親も、満面の笑みでアルトを迎える。
「すごいぞ。アルト。よくやった」
村からURのスキル保持者が出たということで、周りは称賛の声に包まれた。
そんな歓迎ムードの中、グルドだけが面白くないという顔をしていた。
自分が今まで虐めて、舐めていたアルトが、とびきりのスキルを授かったのだ。
「ぐぬぬ……今に見てろ。このグルド様が、さらにいいスキルを授かってやるんだから……!」
そして、次はグルドの番になった。
「グルド=ポコットくん。前へ」
「はい!」
アルトと同じ手順を踏んで、グルドにもスキルが授けられる。
「ステータスオープン!」
だがしかし――。
名前:グルド=ポコット
スキル:木こり(N)
「な、なんだこれええええ……!? こ、この俺様がNのスキルだと……!!!??!??!」
グルドはその場で泡をふいて倒れてしまった。
周りから嘲笑の声を浴びながら、村長が倒れたグルドを抱えて出ていった。
「このバカ息子が……! 村長の息子のくせにNスキルなど……。恥をかかせおって……!」
村長とグルドが去り、周りの注目はみんなアルトに集まる。
アルトの幼馴染の少女、ベアトリスが近づいてきて、アルトの手を握る。
「すごいねアルト! アルトはこのまま村を出て冒険者になるの?」
「ありがとうベアトリス。さ、さぁ……僕に冒険者なんかできるかどうか……」
「大丈夫よ! URのスキルがあるもの。それにアルトならきっと!」
「そうかな。やってみようかな……!」
のちにアルトが冒険者として名を馳せることになるのは、また別のお話――。
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