第5話 これ麦茶だ(違う)

「それで?その国家生命委員会ってのは何する役所なの?」

「読んで字の如くです。国民の生命に関わる業務全般です。さっきあなた助けたでしょ?」

「あれも業務だったの?」

「いや、あれは見逃すと仕事が増えるから慈善みたいなもの」


山田はコップに残っていた麦茶を一気に飲み干す。

そして、なんとなく空気の変化があったかと思うと、真剣そうな顔で私に1つ質問をする。


「ゆかりん」

「はい?」

「人は死んだらどうなると思います?」


突然、重いテーマの質問に変わった。


「そりゃあ、天国か地獄ってやつに行くんじゃないの?本当にあるのか知らないけど」

「やっぱりそうなりますよねぇ……」


山田は目の前のそれほど大きくない机をバンと叩いて

「天国も地獄もありませーん!」

と私に向かって言ってくる。


「ゆかりんは知ってますか?やけに大人びた天才少年や前世の正しい知識を持っている少女を」

「たまにドキュメンタリーとかニュースとかで見ますけれども」


何か話が核心に向かっていると思うと私のセッ…シックスセンスが肩組んで話しかけてくる。


(よお、相棒。こいつはなんだかヤベェ匂いがプンプンするぜ。まるで、その、なんだ。まあそういうことだ)


なんか私らしいシックスセンスだったな。


「人が死んだら天国やら地獄やらに行くっていうのは、真面目に生きていて欲しいと願っていた先人たちのただの戯言です。ゆかりんもこれまでに悪いことすると地獄に落ちるなどと言われたことあるんじゃないですか?」

「確かに…」

「そもそもどうやって死後の世界を現世に教えるって言うんですか!伝聞を信じるんですか!否!確たる証拠も無いのになんてナンセンスなんでしょう!」


話が盛り上がっていくにつれて一次関数、いや、指数関数的にテンションが上がっていく山田花子。

あるぇ?さっき渡したのって麦茶だよなぁ。

気づけばゲラゲラ笑っている山田の目の前にある麦茶を一杯ぐびっと飲んでみる。


ウイスキーだ、これ。

やっべぇー。氷入れんの面倒いからって冷蔵庫で冷やしてたんだ。

しかも、麦茶のボトルで。

あっちゃー、ロックだぁ。


「ごめん、山田さん。それウイスキーのロックだっt」

「ちゅ~」


気づけば私は山田に押し倒されていた。

唇を山田に奪われたまま。

初キスはレモンの味。なんて言うがここで否定しよう。初キスはウイスキー風味だ。


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