入学式あるいは修学旅行(1)

 「君って皆が言うほど美しいの?」

「ああ、これは造形の話ね。つまりね。人間って皆が言うほど…と言っても言い過ぎなのは皆知ってるだろうけど…」

「だから厄介なんだね。皆もう言っても言わなくても変わらないから言ってるだけなんだからね。」

「ああ勿論。僕は文学青年だから褒めようとすればいくらでも褒めれるんだけど……じゃあ君はそこのドアノブより美しいと言うのかい?」それを言って人間ちゃんが帰ってしまえばここにおける物語というは進まなかった。

 どうにも個別の名付けの必要性は対自的ではないはずも、痒いと言えば収まる話でもないので彼女を言ってしまわねばならないという戦慄。だから必要無いのに彼女を言って、目鼻口を有する幻の田中さんは今一度、今一度だけ。

 「結局彼女と呼んでいいなら僕にとって何でも良かったのだけれど、君が付いてくるというのはいよいよ分からない。これを夢と仮定しても埒の明かないのは僕のせいだと思って君を好きだと仮定する。でも僕のせいなら意味が無い。ああ、これは君の夢か。」


 「つまりね、やっぱり流行りの恋愛がしたいんだな。」

 常識的な窓際においてここにおいてやっぱり常識的であらざるを得ない遠近法で語られるべきクラスメイトはそう言って、最小限の身振りといってやはり大がかりな口を開閉させる。

 「君の佇まいは褒めたからもう終わり。後、ラジオで聞いたとおり、僕らの病気は打ち切りだけど、まだ若干飽き切ってはいないのでもう少し続けるよ。」

 まあそれはそれとして、日光浴は今に始まった話ではないが、水道水は海水で、そんなことはないが、ここは教室でなくて廊下の水飲み場。こんなことはある。

 予測しきった展開はやはり嬉しいもので、未だ巡り会わないのもそれである。

 「ここでハンドルについても言ったなら、あなたはそんな趣味には付き合っていられないと言って帰ってしまいそうですから、という訳ではないのです。私は元より君と話していたいだけで、ほら、水槽でも見に行こうか。」

 振り返って彼女のいないのが怖かったが、ちゃんといたので構わず教室を振り返り、急ぎ足で窓際の水槽へ辿り着く。魚を取り除いて、運良く不純物は舞わず、目で見て分からぬ不純物を彼女達と言い合った。

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