狂人は夢見の健常者

 一言、そんなものは無かった。と気の迷いを露わにし、世界が消え去るらしくぞっとした。

 瞬きをした。その程度の話。

 久しぶりの思い出に嬉しくなって、物真似をするならこれは、写真撮影が滞っても普通に世界は終わるらしく…しかし一切の試行錯誤はすっ飛ばされた。

 「そこに窓があるでしょう。ほら、そこに立って……」

 立って、踊り場はこんなにも丸見えで……

 「はい!嘘でした。最初から全部隣の棟の話です。」

 つまり、隣の棟が丸見えで、それというのも隣の踊り場が丸見えで、ここだけガラス張り。いいや、こことあそこがガラス張り。階段の裏側と踊り場の板の厚み、いいや薄みか。この立つ床とあらばそっくり矛盾の向こう側のカップルは…それを見る私。

 私…は、夢において忘れ去られ、余計なものまで無くしてしまう。余計なものなのに無くされてしまう。彼だけが正義。

 残る校舎は五歳児の夢見心地に漂う無人の小惑星に同義であって、すっかりこれを言うのも懐かしく、つまり何度も言うが、今私は彼女とデートを楽しむ。」

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