狂人は疲れている(2)
つまり事故であったが、さしずめ人格的な事故であった。動じ得ぬ少女の為に、私ばかりがすっかり悲劇を試すが私一人。つまり堅牢な彼女に会わざればこの独白は一人芝居に尽きたのである。
「よろしい。他者様よ。あなたもまたこの天幕に避難して来られて、外の病気をああも惚けていられるようだから。」
「アスファルトは思い出の光沢で、その名に構わず日傘であるよ。アスファルトでなくとも日傘であるのは、地面と仲良しの証拠。これは私に向き合っている限りに…間違いない。一個の絶縁体。」とは全く、おとぎ話であるとして、転倒に用意された痛覚が忘れられればいよいよ、地上が先か。地下が先か。きっと今は地上であるから、ほら背中が消えゆく。誰か私が未だ複雑な痛みというありきたりを面白がっている内には、専らここを、このうつ伏せを、ここの死んだふりを、叶わばオフィーリアに同じ仕方で褒めておくれ。
「こんばんは。死んでしまうよ。」としてみれば恋人が私の病気を知っている。ここにおいては中略される事項とは、所謂サナトリウムの出会いとか、もっと幻想、あるいは適当さのことであるが、ともかく彼女は私と病人同士の間柄というのはそうらしい。
「ほらやっぱり。夢は夜まで続かないからこれを言えないんだ。それか言っても良いが言い過ぎないように、月は言うまでもなく言うまでもないが、星は言えないし……なのにどうして私達は死に掛けているのでしょう。見えないし有ると言ってしまわぬように、どうか。」
黄土色の夜を形容したのは初めてだったから、今この最中、道がその摩擦を極限まで減らして悉く滑っていったものが、これは夜でも私でも私達でも良いが……ともかくは夜が優先されて、大気中の私という微弱な哀れは今尋ねたとて分からない。
「まさか、本当に君は、私らというものが、自らの興味において、病気をしていると、いう以外の仕方で以て、確かに、劇中において、哀れまれていると、信じぬままに、肯定するようになると、それは、素晴らしいこと。」
突拍子は殊更に言うことであるが、夜の賑やかな悲しさにおいて思い出された金縛りが、適当な誰かの心臓をアレンジメントしてみせたから、これは正に言うまでもないが、現にほら、劇的に倒れ込む。あるいはそれが可能であるなら劇的でなく倒れ込む。雪は誤謬。興味はあるが論証されない。単に任意の柔らかくない地面が要請された。ゴトン。
目を覚まして、現実のおかしくないことにおいて比較的劇的であったのは、お医者様に彼女の在処を尋ねたこと。尋ねてしまって十秒も後には、何故か、これは重要だが、何故か、彼女を手に持っていたことである。別に予め夢として疑っておいた手の平でもないから、私はすっかり嬉しくなって目覚まし時計を分解しに掛かるのであったが、いいや、この身の方である。この病気に実用性が現れて、つまりこの大恋愛小説の正当性である。ああ、今日は自転車に轢かれてくよくよする日。
ところで、用途をすっかり忘れていたところの医者である。
「どうしてそうも頑なに説明を聞こうとしないのです。」と言っても分かっていますが、
「ではこうしましょう。今日部屋を出て彼女とぶつかります。」と言うならこれは朝でありましょう。
「どうぞ、私は私を哀れんでいますので。どうぞ、ごゆっくり。」さて…さて。
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