第22話

「いや、監視されているのは分かるけどそこまで見ている必要ある?」

俺は思わず教科書越しに、小声で独り言を言ってしまった。

なぜ俺がそんな独り言を呟いてしまったのについては後ろに居る奴が原因だった。

「ちょっと、アンタ見えない」

俺の後ろにいる金髪の生徒が脇腹をシャーペンの先で勢いよく突いてくる。

まるで暗殺対象の急所をナイフで何度も冷徹に刺す暗殺者みたいに。

いや彼女なら、【物質硬化】の能力があるから、きっと力を使ったら俺の脇腹なんて豆腐のように柔らかいのだろう。

そんな現実逃避をしていると後ろの生徒は又急かしてくる。

「頭が広すぎてじゃま」

頭が広すぎて邪魔?

どんな悪態だよ。

たぶんそんな感じで悪態を着いたのはきっと今世紀入ってきみだけだと思う。

そう思いながら身体を捻り、後ろを少し向いた。

「俺も、一応、授業受けてるんだ。邪魔しないでくれ」

俺はちゃんとした生徒を装いながら、前をむいた。

再度、俺の脇腹に痛みを感じる。

俺は怒りを入れながら後ろを振り向いた。

「いい加減にしろよ」

俺は少し怒気を孕んだ声で言った。

後ろに座る美怜は悪びれることなく、言った。

「いや、本当に、見えないのよ。 だから少しだけズレてくれない」

ズレる?

「どうやって?」

俺が美怜に問いかけると彼女は、身体を九十度近くまで倒した。

馬鹿かと俺は思ったがどうやら彼女は本気だった。

「こうやって。頭傾ければ、私が見やすくなるわよ」

私がってどんなジャイアン基準だよ……。

俺は呆れつつ、彼女に言い返そうとした時だった。

「おい、お前ら!」

後ろから授業を行っていた担任の藤倉が声を張り上げた。

かなり大きい声でびっくりしたが、俺は苦笑いを浮かべながら後ろを振り返る。

「なんでしょう?」

俺が振り返り、藤倉をみると担任である彼はチョークを持ちながら、プルプルと震えていた。

「何、笑ってんの、斎藤君。原因、わかってるよなぁ」

藤倉は怒りを抑えているのか、チョークを黒板に押しつける。

さらに震えているからチョークが振動し、書いていた文字が意味不明な物に変わっていく。「そして後ろの、転校生さんもだ」

「え、私?」

美怜はわざとらしく自分を指を差し、変な態度をとる。

「そうですよ。君だよ~」

藤倉は今度は作り笑いをしながら、怒りを抑えていた。

なんだか不自然すぎる。

「いいかい、君ら。転校初日で気があって仲良くなるのは大いに結構。けれど、今はどんなときでどんなタイミングかな?」

藤倉は作り笑いをしながら、チョークを壁に押しつけこちらをみながら言う。

「授業中でデス」

俺は淡々と大佐の顔を思い出しながら答えた。「そうだよね~。だったら静かにするってことはできないのかな~?」

完全にチョークが折れて、白い粉が教壇のしたにぼろぼろと落ちていく。

「一応できます」

俺は藤倉に答える。

「一応ですか~?」

「いえ、できます」

「そうだよね~、そうだよね~。後で二人とも職員室にきなさいね~」

藤倉が怒りを抑えながら、言葉をきるとそのまま後ろを向こうとする。

そのときだった。

「先生」とすかさず、後ろの美怜が声を上げた。

内心、お前、まじかよと思ったが、俺は様子をみる。

「私は悪くありません」

美怜ははっきりと言った。

それをみていた他の生徒がかなりざわつき始めた。

怒りをやり込めながら、藤倉がもう一度、こちらをむいた。

今度は笑っているが、そうとう我慢しているのか、彼の額にはかなり青筋が立っていた。

「ん~、どういうことかな~」

藤倉は眼鏡をクイッとする。

「私は真面目に、受業を受けようと思ったんですが彼が前にいて、見えなかったんです。

だからすこし、ずれてと一旦ですが……」

「お、おい、何、言ってんだよ!」

俺は美怜に抗議をした。

まさかこの女、無実の俺に罪を被せようとしているでは?

俺は冷や汗をかきながら、抗議をする。

「俺は悪くないですよ。だって、ちゃんと授業をうけていたんですから」

「本当に~~~?」

また藤倉は眼鏡をクイッとすると、美怜の方を向き、彼女を問い詰めるように言った。

「僕には君も騒いでいたように見えるな~」

藤倉はもう一度眼鏡をクイッとする。

「そんな先生、私を疑うんですか?」

美怜は泣き出し、顔を抑える。

見ていた生徒達も言葉にしなくても藤倉ないわーという雰囲気をだす。

それに飲まれそうになる藤倉は必死で抵抗をする。

「でもね。僕が見ていたかぎりでは……」

「先生、彼の味方するんですか! ひどい」

美怜は涙を浮かべ藤倉にいった。

「そ、そんなことは……」

「いいんです。先生が信じてくれないなら、このことを校長先生、いやこの街の教育委員会に報告します。 そしたら私の話も信じてもらえるでしょうから」

美怜は目に涙を浮かべながら、早口でまくしたてる。

「い、いや、それは……」

藤倉はしどろもどろになりながら、額をかく。先程までの怒りはどこへやら、既に骨抜きにされた一人の人間である。

等と思っていると、スッと藤倉はこちらをみて、言った。

「斉藤君、後できなさい」

藤倉は仏のような笑みを浮かべながら言った。悟ってんじゃねぇよと内心、俺は思いながら、反論した。

「俺は無実です」

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