第13話
「全部か~」
まるで軍人さんは突然、何かが弾けたように叫び、背伸びをした。
「いやー、それは面倒くさい。本当に面倒くさい。どうしようかなー」
軍人さんは見かけによらない、高い声で、独り言を言い始めた。
「正直さー、この説明、大変なんだよなー。本当にどうしようかなー」
拳を握りしめ、天を見上げながら、軍人さんは、まるでうわごとのように続ける。
な、なにが起きたのか分からず、俺は仰天し、一度、軍人さんを凝視し、今度は美怜と呼ばれた女の子ともう一人の子に視線をむける。
美怜と呼ばれた女の子は呆れたように、首を横にふる仕草をし、もう一人の女の子は興味が無い感じで、スマートフォンを出し、いじくっていた。
いや、緊張感がなさ過ぎだし、それに目の前の軍人さんの豹変ぶりに驚きすぎて、どうして良いのか、なんどか、女の子たちの方と軍人さんを見比べる。
俺はさすがに思った。
いや、キャラ変わりすぎでしょ。
軍人さんは渋いキャラから急に、騒ぎ始めるから何が起こったのか理解できない。
「あー、あー、面倒くさいなー。本当にどうしようかなー」
「大佐!」
しびれをきらした美怜が、大声をだす、軍人さんの声に負けないように声を張り、叫んだ。「本当に説明するの、面倒くさいんだよなー。本当にどうしようかなー」
「大佐っ!」
美怜は勢い良く、大佐と呼ばれた軍人さんの頭を平手でひっぱたいた。
「正気に戻れ!」
美怜が叫びながらもう一発叩くと、軍人さんは雷に打たれように身体を一度、硬直させ、黙った。
そしてカッと見開かれていた隻眼はスッと、渋くて眼光の鋭い感じに戻った。
「はっ、私は?」
大佐と呼ばれた軍人さんは危ない世界から帰還したのか、我に返って驚いていた。
「美怜、報告を」
さっきと裏腹な渋くていい声で、美怜にと言いかけた。
「状況報告? それとも事後?」
「状況報告だ」
「大佐が取り乱していました。 パニクってたし」
「そうか、分かった」
いや、分かったって……、本当かよ?
大佐は冷静に言うと、此方に向きなおった。
急にピリついた雰囲気になり始めた相手に、俺は同反応していいのか分からず、狼狽えてしまう。
目の前の軍人さんは一つ咳払いをし、俺の方をジロリと見る。
「君にはすまないと思っている、取り乱してしまい失礼した」
「別に良いですけど……」
本当に何なんだ?
俺は頭の中ではてなが浮かびつつ目の前のことに集中する事にした。
「君の問いかけについてだな。 ではどこから話そうか……」
大佐と呼ばれた軍人さんは顎に手を当て少し、考えるそぶりを見せると数秒後に口を開いた。「葛道。あのファイルをくれないか」
軍人さんが呼んだのは俺にむかって銃をむけてきたショートカットの女の子だった。
「分かった……」
スマートフォンから顔を上げることなく、ひと言、低い声で答えるとドアを出てすぐに戻ってきた。
「これでいい?」
大佐と呼ばれた軍人さんにショートカットの女の子は友達にノートを見せるかのような感じで、適当に持ってきたファイルを渡していた。
「そう、これだ。 助かる」
しぶい声で、大佐と呼ばれた軍人さんは、女の子に礼を言うと目の前にファイルをおいた。女の子はまた、美怜の隣に立つとスマートフォンを弄り始めた。
俺は目の前のファイルを開く、大佐と呼ばれた軍人さんに向きなおる。
軍人さんは分厚いファイルを勢い良く、捲り、ちらりと隻眼で、内容を追っていた。
あるページで捲る指をとめると、軍人さんはチラリと内容を一瞬で目にし、それを俺に差し出してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます