第2話 出会ってしまった
配達という素晴らしいシステムがあるにも関わらず、なんとなく外に出て、少し何か買いたいと思うのは何かあるのだろうか?
俺はそんな事を考えながら、自転車のペダルを漕いでいた。
勉強をしていて夜の十時を越えて何か食べたいと考えるのは脳のせいだろうか?
もしそうだとしたら脳を使うということで何かを欲するのは人間、いや生物としての性なんだろう。
きっと肉体なんてものがある限り、逃れられないものなんだろうな。
どうでも良いことを考えながら、夜風の冷気を感じなじながら、ペダルを漕ぐ。
自転車は淡淡とコンビニへの進路を進む。
最悪なことに、俺が乗る自転車は父親から譲って貰ったものだった。
その自転車が普通の自転車ならば良いのだが、デザインが正直に言って嫌いだった。
どんなデザインかといえば、父親の出身地の有名な野球団のカラーだった。
黄色と黒を基調とし、虎の絵が描いてある物。
父親がそこの球団のファンであり、何かとつけて『球団を愛するのは地元を愛しているのと同じなんだ』とビールを片手に宣言しているが、正直、言ってる意味がわからない。
そしてこの自転車もその球団のカラーに染められている。
正直、現役の高校生が乗るにはいささか、物騒だし、不釣り合いな気もするが。
取りあえず俺としては走る移動の足として、使用するため使っていた。
ふと奥谷が話していた事を思い出し、どこかで背筋が寒くなる。
姿を見たわけではないが、不審者という言葉に警戒心が大きくなる。
しかもこんな時間の夜道だ。
正直、出くわしたくない。
これから通ろうとする道は街灯も少なく、暗闇の方が多い。
そんな所はすぐに通り過ぎればいいと思い、
道を曲がったときだった。
曲がり、道は直線なのだが、視界に飛び込んできたのは違和感だった。
何が違和感かって?
そりゃあ、街灯の明かりの下で、トレンチコートを来た眼鏡のサラリーマン風の男が華麗にダンスをしていた。
しかもバレエダンス。
見ていてかなり綺麗な動きでネットで見かけたバレエダンサーのように綺麗に踊っていた。普通の劇場や、どこか別の所でみたなら、違和感なんてないだろう。
むしろ芸術として見とれて仕舞うかもしれない。
けれどここはただの道路だ。
しかも夜中に。
違和感、半端ない。
いやいや、もしかしたら、ただ練習しているだけなのかもしれない。
俺は頭をフル回転させ、来た道を戻り、その場から立ち去ろうと思ったときだった。
サラリーマン風の男は俺の存在に気が付き、踊りを止める。
ふと目が合ってしまった。
まずいと思ったときには遅かった。
「おや、君も『ネイキッド・タイガー』に導 かれたのかな?」
サラリーマン風の男は眼鏡をかけ直す。
今、なんて言った?
『ネイキッド・タイガー』とか言わなかったか?
聞き間違いじゃないよな。
俺は緊張しながら、声を絞り出した。
「な、何を言っているんです?」
俺は緊張した声で男に返答した。
「だって、君のその自転車」
サラリーマン風の男は俺の手元を指さした。
「えっ……?」
俺は手元を見る。
まさか自転車のことを言っているのか?
俺は混乱する頭で必死で考えようとしたが頭の奥で警戒を発するアラートが鳴っていた。
変な暴行をされるようなことはないだろうが、さすがにトレンチコートを着たまま、バレエを踊っていたら警戒するし、関わってはいけないということがわかる。
しかも、自分が乗っている自転車を見て変な名前の『ネイキッド・タイガー』に導かれたのかとか言ってるし。
「その虎柄の自転車はもしかして、彼へのリスペクトを込めた主張かい?」
サラリーマン風の男はとびっきりの笑顔をこちらにむけ首をかしげた。
正直、そのポーズは可愛い女の子がやったほうが画になるんだけどな。
などと現実逃避をわずか一秒脳内ですると、すぐに現実に引き戻され、どうするかを考える。
「いや、最近は物騒だからね。 本当に正直になれるところがなかなか見つからないよ」
サラリーマンの男はやれやれと首をふり、眼鏡の位置を正す。
「しかし、こんなご時世に、君のような人物に会えるとはまさに神の思し召し」
そういうとサラリーマン風の男は急に、飛び跳ねると、バレエを踊るようにこちらに近づき始めた。
俺は咄嗟に方向を変え、自転車のペダルに足を乗せ、来た道を戻ろうとした。
逃げなければ。
俺はその思い一つだけだった。
しかし、俺は驚くような光景を目にする。
今、数秒まで目の前にいて俺の後ろにいて、しかも距離も離れていた男は既に俺の数メートル目の前に立っていた。
「こんな良い日に君はどこへいこうというのです?」
男は眼鏡の位置を直すと、くるりとその場で一回転する。
ターンてやつだ。
俺は驚きすぎてその場で固まって仕舞った。
男は綺麗に戻ると、こちらを見て笑った。
どうしたらいいのか、こんな不審者に出会ってしまった場合。
頭の中で必死にどうしようか探してみるが人生の中でこんな人に会った事はない。
対処や、逃げる方法なんて知らない。
心臓がバクバクしてヤバいことだけは実感為ているが身体がうごかない。
俺が黙って見つめていると目の前のサラリーマン風の男は眼鏡の位置をなおし、言った。
「おや、どうしたのです? 震えて? まさか同士に会えたことへの感激ですか?」
男はさぞかし嬉しそうにターンをする。
正直、ツッコミを入れたくなるがそれどころではない。
早く逃げなければ。
しかし、状況はいきなり変わった。
遠くの方で
サイレンらしき音が鳴ったのを耳にし、一縷の望みが出てしまう。
俺はのど元をゴクリと鳴らしてしまう。
男は気が付かずに続ける。
「いいんですよ。 【ネイキッドタイガー】、彼は尊大だ。 来る物を拒まない。 真の指導者にふさわしい」
中年のメタボ気味の男はレオタード姿でうっとりとする。
本当にコイツは何を言っているのだろうかと思ってしまう。
「だからこそ君も彼に付き従おうと思ったのですね」
男は続ける。
その間もサイレンが段々と大きくなる。
しかし、男は怯むことはなく矢継ぎ早に続ける。
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