hen(仮)

How_to_✕✕✕

第1話 噂

「不審者ぁ?」

俺は変な声を出してしまった。

「そうなんだよ、斉藤照間君」

「なぜフルネームで呼ぶ」

目の前の奥谷はまるで名探偵が事件を解決するときのような自信満々の表情で俺の名前を言った。

「ここ最近、この街でかなり変な奴が出ているんだと噂になっているんだ。 斉藤照間君」「だからなぜフルネームで呼ぶ?」

「なんと、かなりの件数らしい」

奥谷は箸をこちらにむけ、事件を推理する警察官のような顔でいう。

というかフルネームで呼んでいるという質問は無視かよ。

そう俺が思っていると奥谷はそれを無視しながら話を進める。

「なんでも目撃された話をまとめると、特徴があるって話で」

奥谷は手元の弁当の卵焼きを箸でつまみ、口に入れる。

眠くなりそうな昼。

ここは第一神谷高校の屋上。

昼休みに俺と奥谷はよくここに来ては飯を食べながらどうでもいいことを話していた。

「特徴?」

「なんでも皮膚が虎柄で、黄色と黒でしかも裸に近いんだと」

「服は着てないのか?」

「着てなくて、大事な部分が隠れているとかなんとか」

「ふーん。そういう芸能人いなかったか?」

「いたか? そんなやつがいたらすぐに話題になりそうだけどな」

奥谷は顎に手を当て思い出そうとしていたがすぐに止めると言った。

「なんでもそいつの名前は『ネイキッド・タイガー』と呼ばれているらしい」

「『ネイキッド・タイガー』?」

英語で直訳すると”裸の虎”という意味になる。

正直あまり、格好いいとは言えないネーミングセンスだな。

そう思いながら俺はその芸能人かわからないがそれを想像しながら奥谷の話を流していた。

基本、彼はとてもおしゃべりで噂付きという類いだ。

いつも話している割合として彼が喋ることが多かった。

「いいか、その『ネイキッドタイガー』はなんでも神出鬼没でなかなか姿を見せないんだそうだ」

「そりゃあ、治安の為にも出て欲しくないけどな」

俺は弁当の中の卵を口に入れた。

咀嚼し、飲み込むと奥谷に問いかけた。

「しかし、奥谷よ。 お前はよくそういう話題を仕入れてくるな。 情報源はどこからなんだ?」

奥谷は俺の質問を聞いて、待ってましたと言わんばかりに鼻の穴を大きくし口を開く。

「ふふん、それは企業秘密とさせてもらおうか。 情報源を知られたら大変だからな」

どう大変なのかはわからないが、どうやらあまり答えたくない内容らしい。

「まぁ、だいたいSNSだろ」

俺は興味が失せ、お茶を口に含む。

「なんだ、なんだテルー。興味がないとか、そして人がSNSだけが情報源だとかいうなよ」

人をどこかの山脈の遺跡がある国のようなイントネーションで呼なよと内心思う。

「冷たいか? それにそこまでSNSだけが情報源の男なんて一言もいってないだろ。それに不審者なんてどこにでもいそうじゃないか。ほら目の前」

俺は奥谷を見ながら言った。

「……? おい、俺は不審者じゃないぞ」

「ちっ、気が付いたか」

「失敬な奴だ、テルー。 俺は不審者じゃない。 クレイジーだが」

「自分でいうか普通」

俺は半ば呆れながら奥谷に言った。

「で、なんだその……クレイジータイガーだっけ?」

「混ざってる混ざってる。 『ネイキッド・タイガー』だ」

「そうだそうだ。 その『ネイキッド・タイガー』は最近だといつ現れたんだ?」

俺は率直に疑問を投げかけた。

「そうだな。 …ちょっと待ってくれ」

奥谷は自分のスマフォを取り出し、スクロールする。

「あったあった。 つい最近だと昨日だ」

「昨日? めちゃくちゃ最近じゃないか」

俺は彼の意外な答えに驚いた。

「ほら、見てみろ」

奥谷は俺に向かいスマフォの画面をむける。

彼のスマフォの画面には超大手のSNSが映し出されていた。

そこには投稿でこう書かれていた。

『変なの見ちゃった』と。

そして内容は状況を短く書き、投稿者が撮ったであろう写真が乗せられていた。

写真はぶれていてわかりにくいが、確かに人の姿形を為ているがどこか皮膚の色が真っ黄色に近い感じだった。

「これ、本当か?」

なんだか、嘘くさく感じてしまい、俺は奥谷に、問いけた。

「本当だ。 本人に確認したんだ」

「本人って…この学校の生徒なのか?」

「そうだ。 けれど素性は明かせない。明かしてしまったら危険が及ぶからな」

「危険って……」

何の危険にさらされるのかはわからないが個人情報とプライバシーだけは守られそうだ

俺はのんきにそう思った。

「まぁ、夜道には気をつけろってことだな」

話を切るように奥谷は話す熱が失せたのか、手元のコーヒーに口をつけた。

俺はふと空を見上げた。

今日も良い天気で、そんな不審者とか関係ないくらい空は青く清んでいた。

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