幕間の会話

 金髪の騎士に続いて黒髪の女勇者が飛び出した瞬間、流していた魔力の流れを断ち切った。

 途端に足元の魔法陣は輝きを失って霧散し、操っていたゴーレムは形を失って崩れる。


 ──やはり無理だったな。


 力はまだ完全に戻っていないものの、あの騎士と勇者が揃って離れた今がチャンスだと強引に急いたが、上手くいかなかった。

 呆れたようにため息を吐いてしまうのも仕方がないと思う。


 しかし、感覚を取り戻すにはいい練習になった。

 細かい操作に手間取り、うっかりあの方を潰しそうになったが……まあ、それはそれで構わないのではないだろうか。

 正直、俺はあの肉体がどうなってもいいと思うのだが、どうもそういうことではないらしい。が、どうせ俺にはよくわからないことだ。なったらなったでなんとかなるだろう。


 ──しかし、あの外見はなんだ?


 柄にもなく驚きを隠せなかった。

 もさもさ頭の黒髪少年を思い返して首を捻る。あちらの魔力にもなにかしら起きているのだろうか。

 騎士と勇者以外にも変な虫が付きまとっていたようだし、少しばかり想定外のことが起きている。


 本当に、こちらの世界は変わっている。

 ……とはいえ、それは俺が考えることではないか。


 魔力ももうじき戻る。俺は言われる通りにやるだけだ。

 騎士も勇者も、魔王ですら俺にとってはどうでもいいことなのだから。


 大事なものは、昔からただ一つと決まっている。


 砂と瓦礫の山となったゴーレムから視線を外して、振り返った。


『くっそ、あいつら邪魔だな』


 そこには焦げ茶色の尻尾を苛立たし気に揺らして、悪態を吐く後ろ姿が見えた。ガサガサと草むらに消えて行くのを追い横に並ぶ。


『だからまだ待てと言ったのに』

『うるせ。こんなにすぐ来るとは思わなかったんだよ』


 行くぞ、と駆ける後に続いた。


『でも結果悪くはない。あの方は俺の魔力に気付いたみたいだ』


 伝えれば鼻で笑う声がした。


『ああ、なら馬鹿みたいに向こうから来るかもな』

『こちちの魔力もほぼ戻っているし、焦らなければ次こそいけるだろう』

『……嫌味か」

『今だ行け! とその尾で叩いてきたのは誰だったか』

『わかったから黙れって』

『悪くない頭をしているのだから、短絡的なところは見直した方がいい』

『こんの──っ』


 こちらのもっともな指摘で、ブスッと黙り込んだ相手とともに山を突っ切る。


『とはいえ、その頭は信頼している。言われた通りにはやってやろう』

『そうかよ。それはありがてぇことで……ていうか、あの姿はなんだよ』


 相変わらずこいつは不機嫌そうに会話をする。しかしその疑問には同意しかない。


『俺にはその辺はわからない。考えるのはそっちだろう』

『ここにきて面倒なのは勘弁してほしいよな』


 グチグチと垂れ流す文句をを適度に聞き流しながら、白い身体で山を駆けた。

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