犬ころがゆく 0話

 世界が、暗転した。


 どこかに飛ばされたのだ。


 どこかは、分からぬ。


 梅太郎は元気にやっていくだろうか。

 少しは、自分の剣術が助けになっただろうか。

 いぬいは、どうせなら、自分の剣の腕で誰かを助けられる場所に行きたいな、と思った。


 そして、異界門の術式が、「承知した」と、了解した旨をつぶやいたような気がした。


 異界門の術式は、中途半端に発動され、その主を大量の生け贄を用意したいぬいに設定しているのだ。



 ・

 ・

 ・

 何年か。

 何百年か、もしかしたら一瞬か。

 ・

 ・

 ・



 「む……むぅん。」



 「おじちゃん、起きて。起きてよ、おじちゃん。」

 「ねぇ、こんなところで寝てたら、風邪ひいちゃうよ!」


 草原か。

 少し殺風景だ。


 子供が。


 身体を揺らす。


 子供……。



 「松五郎!?」


 「う、うわぁ!」


 いぬいは飛び起きた。

 松五郎がいるわけはない。



 では梅太郎?

 でもない。


 「な、なんだよおじちゃん、誰なんだよ。」

 「マツゴロウって……誰……いや、そもそも! おじちゃんが誰なんだよ!」 


 次元を漂流し、異界門のおかげで“いぬいが活躍できそうな次元”に降ろされた。


 もしかしたら、がんばって異界門の術式が探したがそんな次元は見つからず、やむを得ずにここに落ちて来たのかもしれぬ。


 ここは、次元の落窪、ゲイルガンド。

 あらゆる次元の、あらゆる漂流物が漂着するところ。


 いぬいはこの少年に連れられて近くの村を訪れ、そこで少年の姉にお実代の幻影を見るだろう。


 そして襲い来るゴブリンたちの盗賊団を蹴散らし、自分のせいで村に迷惑はかけられぬと、村を出ることになるだろう。

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