犬ころがゆく -1話
最上真師範の一人、
ここまで疲弊するのを待っていたのだ!
最後の真師範を切り捨て、
しかも、なんということだ!
最上真師範は一人ではない!
5人だ!
しかもしかも、なんということだ!
伝説的な存在である、究極最上真師範の
だが、ここで雲行きが変わった。
異国より来たという
まるで外国人だ!
江戸幕府では、外国人は御禁制である!
「フハハハハ!」
「よくぞここまで御膳立てしてくれましたね、無名の剣士よ。」
「ワラワの名は、アマクサ。」
「さて、事の仕上げじゃ。」
「ゆけ、
幕府を
バカな!
これにはさすがに、同じ最上真師範の
「な、なにをやっている、兄者!?」
「そのイカサマ野郎の犬に成り下がる気か!?」
真師範よりもはるかに。
だが、それほどか?
剣にキレが足りない。
そして、あっけなく首元の動脈を切り裂かれ、大量出血した。
……だが。
不気味な目に、光が灯ったまま。
倒れる気配はない。
「ほうほう、やっかいじゃな、無名の剣士よ。」
「まぁよい、儀式はできる。」
アマクサと名乗る異様の呪い師が、印を結び始めた!
「なっ、兄者になにをした!?」
だが、もう遅い!
ほかの最上真師範も、たった一人の生ける伝説、究極最上真師範も、その目に生気はない。
不気味な光が灯るのみだ。
「天下分け目の関ケ原で、日ノ本が『東の豊臣・石田勢力』『西の徳川・上杉勢力』そして『南の島津・長曾我部勢力』『北の伊達・奥州源勢力』に四分されて、400有余年。」
「ワラワは『南の島津・長曾我部勢力』を食って大きくなったが……邪魔が入ってのう。」
「“異世界”である、この世界に封じられたのじゃ。」
そんなバカな!?
天下分け目の関ケ原によって、日ノ本が『東の豊臣・石田勢力』と『西の徳川・上杉勢力』に二分されて、400有余年。
『南の島津・長曾我部勢力』と『北の伊達・奥州源勢力』など、聞いたこともない!
もしそうだとするならば、このアマクサとかいう男、大ほら吹きか、狂っているか、または日本とよく似た別の次元から来た異世界人なのか!?
「スデに……ワラワが持ち込んだ
「江戸将軍すらも、つい先ほど、ワラワの
「草陰勢力の最後の生き残りは、そなた、
「ふ、ふざけるな!」
「拙者の復讐に、呪い師風情が割って入るな!!」
「逆じゃよ。ワラワの計画のイレギュラーとして、そなたがおったのじゃ。」
「おかげで、生け贄の準備にずいぶん苦労したわい。」
「草陰の者どもに辻斬りをさせたり、ほかの流派を襲ったりさせていたというのに。」
「それを邪魔しおって。」
「じゃが膨大な生け贄の準備も、今、そなたがやってくれた。」
アマクサが、
まさに屍山血河とはこのことか。
しかも、全員が一流か、それ以上の剣士なのだ。
生け贄としては贅沢だ!
あまりにも!
何か、自分のなかから生気のようなものが抜けていくのが分かる。
やり切った気がしてきた。
むしろ、
「ふ、“ふざけるな”は、貴様ら両方だ!」
「あと少し、あと少しで幕府を草陰のものにできたのだ!」
「目を覚ませ兄者!」
「
いかにも興味なしといった趣で、アマクサは
「面倒な。やれ。」
無理だ!
絶対に無理だ!
自分と同格の剣術の腕をもつ者3人と、自分より格上の1人を相手に、
アマクサは、ニヤリと笑う。おぞましい笑みだ。
「ワラワが元居た世界から、ワラワの部下たち、その残党を引き寄せる。」
「ワラワは、別にあの世界が欲しいわけではない。」
「世界が手に入れば、それはどこでも良いのじゃ。」
「そのためには、生け贄を使った禁呪で、異界の扉を開く必要があった。」
「権力は得た。」
「生け贄も得た。」
「そして……今、異界を開く術式が完成した。」
すわ、もう終わりか!?
この世界は、奇妙な魔術師に支配されてしまうのか!?
いや!
そうではない!
アマクサは完成したと宣言したが、実際には完成していない!
完成できていないのだ!
“完成し”と“た”の間くらいの一瞬の隙間。
その隙間、最後の術式の印が結び終わるか終わらぬかで、
いかに異世界の覇権に手が届いた魔術師とて、そしてこの世界を手に入れる寸前である呪い師とて、『
「今さら、何のつもりかね、無名の剣士よ。」
「指を落としたとて、何度でも生え変わって……。む?」
異世界を開く術式は中途半端で終わった。
そして、その術式のための大量の生け贄を用意したのは、誰あろう
「バ、バカな!?」
術式が、中途半端に展開する!
アマクサがいた次元とは、別の次元につながっていくのが分かる!
しかも……その中心は、
「生け贄を用意したのが、あの無名の剣士だから……か!?」
「あの無名の剣士が、異界門の主として認識されたとでもいうのか!?」
アマクサは、ここに来て初めて、焦りを見せた!
実は、公安の中年捜査官を中心として、反アマクサ連合が広がりを見せているのだ!
邪魔者を
使える駒であった草陰の者たちは、すべて生け贄に使って、いまやたった4人。
しかも全員をゾンビにしてしまった!
まともな勢力にはならない!
自分が元居た世界から引き寄せる、自分の勢力の面々が頼りだったのだ!
それももう、望めまい。
「無名の剣士よ、何ということをしでかしてくれたのだ!」
「いんやぁ、
「最後の仕上げが、全体の半分くらい大事だ、っていう教えがありやしてね。」
「剣術にはあるんですが、魔術にそういう教訓みたいなお話はないんですかい?」
「それにね。無名無名って。拙者にも名はありやすぜ。」
もはや、
何度呪い殺しても足りぬほど恨んでいるが、仕方がない。
「なぜ、なぜ……。死んだように目的もなく生きて来た、殺戮だけが生きがいになったそなたが。」
「なぜ急に、ワラワの邪魔をしたのか。」
「理解ができぬ。復讐も終えたのじゃろう?」
「なぜ急に?」
「それだけ。それだけでも聞かせてたもれ。」
ここは三丁目。
すごーーーーーーく遠くだが、
梅太郎が生きるこの時代が、少しでも生きやすくなってくれたらいいと思ったのだ。
簡単に言うと、正義の心とか、善意とか、悪を許さないとか、そういうやつだ。
もっともっと、恥ずかしくなるやつを。
「“聞きたいのはそれだけ”ってこたぁないでしょうや。」
「アンタさんを、こんだけ困らせた拙者の名。」
「いつまでも“無名の剣士”呼ばわりじゃ、夜な夜な枕を濡らしながら恨み言をぶつけるのに、不便でやんしょ。」
「聞いていきなせぇ。」
「拙者は、
「誰が呼んだか知りやせんがね……。」
「人呼んで……
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