犬ころがゆく -2話

 『草陰流』の師範相当、師範級、師範代、師範、真師範相当、真師範級、真師範代、真師範などの実力者たちが、恐ろしい速度で殺到する!


 いぬいは、むしろそれこそ好機として待ち構えていた!

 「拙者を誰だと思ってるんです?」

 「誰が呼んだか知りやせんがね……。」

 「人呼んで……


  ……無刀斎むとうさい。」


 カチリ、と音がした。


 抜刀したのではない。


 納刀したのだ。


 刀の柄に手をかけてはいるが、これは納刀仕草である。

 すなわち、残心している。


 いぬいは、一呼吸の間、残心の構えを崩さぬ。


 次の瞬間。


 飛び掛かった『草陰流』の師範相当、師範級、師範代たちが数十名、その勢いのまま飛び散りながらバラバラになる!


 全員即死!


 生存者の確認など必要ないほど、完全なるバラバラの即死!

 確実だ!



 すでに次に飛び掛かっている師範と真師範相当たちは顔を青くしたが、時すでに遅し!

 彼らの青くなった顔を鮮血が赤く染め上げる!

 自分たちの血だ!


 残心!

 いぬいは残心している!


 それを見ても、真師範級や真師範代は構わず飛び掛かる!


 残心か!?

 いや、ギリギリ、ギリギリ我々の動体視力でも、刀の動きが見える!

 打ちあって止まった瞬間だけ見える!


 “影抜き”が通じぬ実力者たちには、示現流よろしく、強力な打ち降ろしで刀ごと破壊している!

 さすがにその動きは、自分の刀に対して『無刀』と呼べるほど美しくはない!

 だが相変わらず、相手の刀は『無刀』であるかのごとく、次々と倒している!


 真師範の面々が出てきた!

 打ち合いが、数合続くようになった!


 いぬいに、残心をしている余裕はない!


 なんとか、なんとか捌いているという状況だ。


 もはや、自他ともに『無刀』ではなくなってきた。


 そして。



 「木っ端流派にしては、ようやる!」

 「だが、もう終わりだ!」


 なんということだ!

 最上真師範の一人、草陰くさかげ重三郎じゅうざぶろうの登場だ!

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