犬ころがゆく -4話

 女将さんは、胸騒ぎがしていた。


 「ナイトウさん……三丁目のほうに行ってないといいけど……。」


 保主人倶楽部ホスト・クラブに勤める保主人ホストをはじめとした長期滞在施設ロウニン・ドミトリー連中の昼から飲んだくれ組が、思い思いに話をする。


 「あの人、フラッと来たし、フラッといなくなるんじゃないかな。」


 「三丁目の発酵小麦粉練窯焼パン屋の梅太郎と、陸鯨にく屋の竹之介がやけに懐いてるよね。」


 「そういや、ナイトウって呼び出したのも、そのへんの子供だったよな?」


 「たしかに、あの人が自分で“へい、あっしの名前はナイトウです”って言ってるとこ、見たことねぇな。」


 「なんでナイトウなんだっけ?」


 その辺に、くだんの竹之介がうろちょろしている。


 「なぁ竹之介。なんであの人、ナイトウってんだ?」


 竹之介は、ぼーっと当時のことを思い出した。

 その場には確か、梅太郎も、あと……何人かいたような気がしなくもない。

 子供にとっての1年前は、はるか大昔なのだ。


 なぁ、おっちゃん、剣士なんだろ! なんか、こう、すごいワザとかないのかよ!

 聞いたぜ! おっちゃん、すごいワザをもってるんだろ!

 刀が無いのか?……いや、あるじゃん! え、無いように見える?

 イアイ? ただのイアイじゃない? イアイだけじゃない???

 ? かたな

 い?……とう


 ははは。それはいいな、梅太郎くん。ないとう、ナイトウか。

 よし、梅太郎くん、竹之介くん、椿丸くん、楓ちゃん。

 今日からおじさんのことは、「ナイトウ」とでも呼んでくれよ。



 満を持して、竹之介が答える。

 「そうだった! 椿丸と楓ちゃんもいた!」


 大人たちは、もうそれほど興味をもっていない様子だ。

 「公安、どっかいかねぇかなー。はぁー。」

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