犬ころがゆく プロローグ1/2
袴に着流し。
腰に大小の刀を下げた、侍が一人。
むしろ食い詰め浪人というか、武士……それも“野武士”というか、少し粗野な印象がある。
しかし、野卑な雰囲気はまったくない。
その所作はしっかりと教育を受けた貴族のような気配をまとっている。
侍(≒士)とは、ある時期においては紛れもなく武闘派集団であり、そしてある時期においてはまさしく貴族階級だったのだ。
この男は、
そんな彼を囲むのは、30名からなる盗賊集団。
しかし、ただの盗賊ではない。
子供ほどの小柄な身体に、似つかわしくない赤みがかった狂暴な顔!
ゴブリンだ!
一般的な成人男性よりも頭一つ背が高く、ガッチリとした筋肉質の体に下卑た目つき!
ホブゴブリンだ!
へちゃむくれに潰れた鼻と下顎から不自然に伸びる猪のような牙、そして大柄な体つき!
オークだ!
3尺を優に超えて2mに達せんほどの巨躯と、ミチミチと膨れ上がる筋肉、そして頭部に見える角のような角質!
オーガだ!
彼らの誰もがみな、野蛮な刃物や鈍器で武装している!
しかも、しかもだ!
通常の盗賊団であれば、オークやオーガの2~3人が中心となり、10人程度のゴブリンを引き連れているものだ。
そのなかに数人のホブゴブリンがいれば、もう辺境警備隊が出張ってこなければ対処できない大ごとになる。
だが、この集団は明らかに比率がおかしい!
オーク10人、オーガ10人、さらに大型の希少個体であるホブゴブリンが5人!
残る5人は一般的な体格のゴブリンだが、ただのゴブリンではない!
魔法を使える、ホブゴブリンよりもさらに希少な個体、ゴブリンメイジだ!
明らかにただの盗賊団ではない。
この時間、この峠を通る、この侍を待ち伏せしていたのだ。
そして、確実にこの侍を倒すのだという気概が感じられる、恐ろしい編成!
高度な知性をもったゴブリンメイジが告げる。
「オマエは、俺たちの仲間を殺した。復讐だ!」
「俺たちを舐めたヤツがどういう目に合うか、村の連中への見せしめにしてヤル!」
吹きすさぶ風!
魔力を帯びた大気!
はるか上空を飛翔するドレイク!
角の生えたウサギ!
歩く巨大キノコ!
むしろこの空間で異質なのは、東洋風の出で立ちをした侍のほうだ!
「むざむざ、一つしかない命を散らすこともあるまいに。」
「いやさ。この世界では、いくつも命をもつ者もおるんでやんしたかね?」
……だが、そなたたちはそうではあるまい。と、侍は盗賊連中を値踏みする。
オークやオーガは、なかなかいいガタイだ。
しっかりと稽古をつければ、
ゴブリンメイジが命令を下す。
「ヤレ!!!」
「名乗らぬのも気持ちが悪いのう。」
「正々堂々と名誉をかけた決闘をするわけでも、御前試合に臨むわけでもありやせんが。」
侍は続ける。
「覚えずとも、ようござんす。」
「拙者のような、ただの木っ端素浪人の名など。すぐに忘れるがよろしかろう。」
「なに、お気になさんな。こちらの気持ちの問題でさぁ。」
オークが! オーガが! ホブゴブリンが!
筋肉と暴力の塊が殺到する!
もう目と鼻の先だ!
悠長に名乗っている暇などあるのだろうか!?
「拙者は、
「人呼んで……
侍の刀が、カチリ、と音を立てた。
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