『ヤギさんどちら?』プロローグ1/2
「応答を願います。至急、応答を!」
上空から彼女に向けて、飛竜と思しき爬虫類が喉を鳴らしながら迫ってくる。
悲痛な叫びも空しく、通信機は網膜ディスプレイに向けてエラーメッセージを吐き出し続ける。
彼女のような小柄な女性など、この獰猛な怪物に襲われたらひとたまりもないだろう。
「(復活再生させた翼竜のクローンか?)」
「(それとも、某国の生物兵器か?)」
「(なんにせよ、私のデータベースにない生物だ。)」
「(閲覧権限がないのか、それとも……未知の生き物なのか……。)」
「(この世界の時空間座標が表示されない。いったい、ここはどこだ?)」
彼女の疑問ももっともだ。
空飛ぶオオトカゲ!
角が生えたウサギ!
歩く超巨大キノコ!
などなど、などなど!!
ここは、明らかに彼女が知るモノとは異質な生命が跋扈する魔境であった。
網膜ディスプレイには、周囲のダークマターが基準値を大幅に超えていることも示唆されている。
検知不能な、しかし「
向かってきた飛竜が火を噴いた。
どうやら、中生代に生きていた古代生物をバイオテクノロジーで復元させた生物ではないらしい。
「(バカな、これじゃドラゴンじゃない!? いえ、ドレイクか……ワイバーンか……って、そいつらって火を噴くっけ?)」
迫りくる業火を容易くかわしながら、彼女は考えを巡らせる。
実は、むしろこの場で異質なのは彼女のほうであった。
白衣にも見えるロングコートは、エナメル感やラテックス感のある材質のせいか少し光沢が感じられる。
「文明脅威を“竜”と認定。繰り返します、文明脅威“竜”!!」
叫んでみても、エラーメッセージは消えない。
反応もない。
「仕方ないなぁぁあっ。本部の承認なしで、自力で対処するしかないみたいね。」
「『ヤギ』の意地ってヤツを、見せてやりますか。」
なぜこんなことになってしまったのか。
それを知るには、数日前にさかのぼって彼女の足取りを追いかけるしかあるまい。
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