第7話 公爵家を出し抜く手筈

 ブランドン殿下に事業の説明をした後。

 2日後には正式な契約書を作成して署名を交わし、さっそく事業に乗り出しました。

 殿下の領地から甜菜を仕入れて砂糖に加工し、試作を兼ねた初期製造品の品質に問題がないことを確認するまでに、約3週間。

 その間、公爵家がフェアチャイルドの後継者争いのことで表立って介入してくることはありませんでした。

 やはりこれは王族であるブランドン殿下と組んだことが大きいでしょう。

 いくら公爵家と言えど、王族を蔑ろにはできません。

 それは王族の行う事業も同様です。

 仮に公爵家が私を陥れるようなことがあれば、それは王族の邪魔をするも同義。

 だからこそ、私は悠々と公爵家の力を削ぐための事業に時間を費やすことができました。

 砂糖の製造に成功した後、まずはフェアチャイルド商会と以前から取引のあった貴族や飲食店に向けて販売を行いました。

 砂糖は本来、アドニス公爵家しか扱えないはずの品です。

 そんな商材を、公爵家と対立を深めており、王国最大の商会の実質的な主人であるキャロライン・フェアチャイルドが表立って販売し始めたとなれば、注目されるのは必然です。

 王都では「フェアチャイルドが砂糖を手に入れた」という話題が急速に広まり始めていました。


「ふふ、今のところはうまくいっているようですね」

 

 商会本社の、執務室にて。

 私は新聞に目を通しながら、思わず笑みをこぼしました。


「はい、さすがお嬢様です! この調子なら、公爵家をぎゃふんと言わせることができますね!」


 秘書のリナが、嬉しそうに言います。


「正直、初めての試みだったのでうまくいくかは少し不安でしたが……予想以上に甘くておいしいので何よりです」


 私は机に置かれた皿から、クッキーを一つ摘みます。

 このクッキーはフェアチャイルドが独自に製造した砂糖を使用して作ったものです。


「お嬢様……私も一ついただいてもいいでしょうか」

「はい、どうぞ」


 私はリナの方に皿を差し出します。

 するとリナは素早い手つきでクッキーを手に取ると、美味しそうに頬張ります。


「んー、甘い! こんなお菓子が気軽に食べられる時代が来るとは! しかもあんな野菜の根っこが原料なんて信じられません」

「ええ。ただ、砂糖の原料と製法についてはくれぐれも内密にお願いします」


 私は真面目な顔で、リナに念を押します。


「はい。その辺りの管理は徹底しています。ブランドン殿下の領地から大量に甜菜を仕入れていることまでは隠せませんが、真の利用方法までは誰も掴めていないでしょう」


 私は公爵家を出し抜くために、フェアチャイルド製の砂糖が甜菜からできていることは徹底的に隠していました。

 もちろん、大量の甜菜を輸送すればそのこと自体はすぐに公爵家にも露見します。

 しかし、彼らはまさかその根を砂糖に使うとは想像もしていません。

 加えてフェアチャイルド商会は、大量に仕入れた甜菜の葉を人々によく知られた野菜という形で売り出すことでカモフラージュしていました。

 当初は「フェアチャイルド商会がおかしな流行を作り出そうとしている」と少し噂になったりもしましたが、今となってはその話も砂糖の件でどこかに消えました。


「ですがお嬢様。この先本格的な製造体制に入って大量に販売を開始したら、隠しきれなくなると思いますよ?」

「それは私も理解しています」


 私はリナの懸念にうなずきます。


「では、どうするおつもりですか?」

「別に私は何もしません。むしろ何かをするのは、アドニス公爵家の方でしょう」


 そう。

 そろそろ彼らが動く頃合いです。

 私はそれまで、ブランドン殿下と共に予定通り事業を展開していくだけです。


「あ、そう言えば今日はブランドン殿下と会う日でしたね」

「そうですよー。最近、お嬢様は毎日のようにブランドン殿下とお会いしていますよね」

「それは……共同事業者ですし、向こうが誘ってくるからです」

「またまたー、お嬢様だって満更でもないくせに」


 私が殿下の名を口にした途端、リナがからかってくるのでした。




◇◇◇◇◇




とりあえずコンテスト期間内に規定の文字数に到達することはできました……欲を言えば完結までさせたかったですが仕方ないですね。

今日の更新はここまでですが、次回はまた週末あたりに更新したいと思います。

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