遺書

芳田紡

遺書

 貴女がこれを読んでいると言うことは、私はもうこの世には居ないのでしょう。


 なんて。

 やっぱり遺書といえばこの書き始めだよね。


 貴女は今どんな気持ちだろう。


 怒ってるかな、それとも悲しんでるかな。少なくとも、喜んではいないと思うけど。


 貴女と初めて会ったのはいつだったっけ。

 結構最近だったような気がする。中学校から同じ学校で、学年も同じだったけど…確か、高校2年生の夏休みか。

 近所の駄菓子屋さんでばったり会って。お互い名前は知ってる程度だったのに、すぐ意気投合したんだっけ。


 貴女が2回連続で棒アイスのあたりを引いて、お腹を壊していたのは記憶に新しい。


 お腹弱いんだから、気をつけてよね。


 そういえば、貴女の小さな頃の話をまだ聞いていない。もう一度話すことが出来たら、色々聞かせてもらおうかな?


 にしても、まさか大学に通うこともなく死んじゃうとは思ってもいなかった。


 そう考えると、もっと早く貴女と出会いたかった。


 もっと、貴女と同じ時間を歩めたら。

 どうしようもない——わかっているんだけど、そう思わずにはいられないよ。


 後ろ向きなことばっかり書きたいわけじゃないんだけど、もう1つ記すことを許してほしい。


 貴女との約束を守れなくて、ごめんなさい。


 私の自惚れじゃな——ば、私は貴女の人生を大きく変えてしまったと思う。


 貴女を取り巻く人間関係も、進路も、恋愛観も。


 あのときの、薄暗い公園での話をよく覚えてる。


 あんたが私をこんなのにしたんだからね!!私のこと捨てたら許さないから!——束!…って。


 珍しく貴女から口付けをされて、私は嬉しさで涙が出ちゃって。


 頑固で素直じ——い貴女らしい、強引な約束だったけど、本気で守るつもりだったんだ。

 信じてもらえないかな?


 どうしよう、こんなこと言ってると、どんどん欲が溢れてきちゃう。


 死にたくないな。


 もっと貴女と歩きたいよ。


 舞い散る桜も、万緑の森も、紅葉の帳も、落ち葉と枯れ芙蓉も、何——って貴女と一緒に眺めたい。


 もう、叶わないのかな。

 

 貴女は神様なんて——いって言っていたけど、弱い私はどうしても縋ってしまう。


 しょうがないなって、いつもみ——に頭を撫でて欲しい。寂しいよ、——して隣にいないの?


 ごめんね、情けないけど、後ろ向きなことは1つじゃ足りなかったよ。


 暗いこともここまでにして、私が本当に伝えたいことに移るね。


 大好き。


 何度も言ったけど、見え——うに、私の想いを残しておきたいなって。


 本——心の底から大好きだよ。


 もうカレンダーを捲ることもできないくらい先のない人生だけど、ずっと貴女のことばかり考えてる。


 貴女に向けて色々書いてると、これまでの貴女の姿が鮮明に浮かんでくる。


 友達になってすぐの夏祭りで、食べ物のためだけに財布の中——空にしちゃった貴女。


 テストのためにって勉強し——に来たのに、すぐに机の上で眠っちゃう貴女。


 初めてキス——た時の、顔を真っ赤にして黙りこくる貴女。


 朝起きた時に、寝ぼけ眼で手を伸ば——甘えてくる貴女。


 書くとキリがないけど、かけがえがなくて、ベッドの上でしか生活できない私を支えてくれる大切な思い出。


 貴女は強———、——死んでもすぐにでも立ち直って、いつも通りの無邪気——顔で朝起きてくれるって信じてる。


 …やっぱり1ヶ月くらいは悲しんで欲しいかも。


 ふふ、な———っ—ね。

 

 どうか、私のいない世——も、強くて、凛々しくて、可愛くて、明る——そんな貴女で、そのままの貴女で生きて欲しい。

 幸福に包まれて、何も思い残さずに、私に会いに来て欲しい。

 私は約束を守れなか——けど、このお願いを聞いて欲しいな。

 知っての通—————結構図々しいからね。




 さようなら。


 心から愛してる。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

遺書 芳田紡 @tsumugu0209

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ