第6話 欠けた色彩
人の見えている色彩には個人差がある。青年は指摘されるまで自分に区別できていない色があるなんて知らなかった。
絵描きの青年にとってそれは致命的と言えた。それでも青年は絵を諦めずに書き続けた。
半年後、青年の絵はコンクールの金賞に選ばれた。青年は泣くほど喜んだ。
表彰される前に銀賞に選ばれた少女から話しかけられた。あのカーテン、色の混ぜ方が絶妙でした、と。
青年の笑顔が固まる。カーテンは一色で塗っていた。
光の加減や布の皺ならわかる。混ぜ方?
青年ははっとする。途中で絵の具が切れて同じ色の絵の具を使ったのを思い出したのだ。
表彰が終わり青年は何かに追われるように家まで走った。野良犬のようにゴミ箱を漁る。
やっと見つけ出した空の絵の具のチューブ。交換したものとラベルを見比べた。
青年はまだ残っているチューブとともにゴミ箱に投げ捨てた。青年は少女の絵を見て勝ったと思っていた。
でもそれはきっと青年には見えない色にこだわっていたからで。偶然で生み出した作品に勝たせてもらっただけで。
色付いていた世界が灰色に見える。色彩が欠けていた。
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