第4話 希死念慮とタナトフォビア

少年は幼い頃から死ぬことを過度に恐れていた。死んだら何も考えることができずに消えるんじゃないかと考えたから。


幽霊も魂も少年は信じない。信じるものがないから、結果として死んだらそこが行き止まりなのだと考えていた。


自分が消えてなくなると思うと体の内側から血の気が引いていく奇妙な感覚に襲われる。それが少年の常だった。


同時に少年は死を救いだとも考えていた。生きていればつらいことばかりだから。


少年は自分が嫌いだ。死ぬ理由もないが生きている理由もなかった。


死にたくないのに死にたい。矛盾を抱えているから自分というものが定まらない。


みんなそういうものだと考えていたが、そうではないと知ったのはずいぶん遅かった。少年は馬鹿ではないが、考えても仕方ないことを考えるという点では馬鹿だった。


病院で診断すれば鬱だと言われるのだろう。だが治療をしたところで治るとも思えない。


だってそれが少年の普通なのだから。普通に戻すのが治療ならば、初めから病んでいる人間はどうすればいいのだろう。


少年は自分が普通ではないことを知っていた。だから小説を書いた。


自分の普通を書いているだけなのに、他の人からすればそれは普通ではない。感性が人とずれていることを利用した。


少年は知っていた。極論で言えば、考えなければ幸せになれることを。


少年は知っていた。書き続けるほど自分の首を絞めていることを。


それでも書いた。書き続けた。


それは緩やかな自殺か。それとも誰か理解者を求めているのか。


少年自身にも分からない。或いはどっちもなのかもしれない。


きっと自分は病んでいる。その自覚があるから恋人も作らない。


自分を粗末にして、他人を思いやりすぎた。少年は死神を待っていた。

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