第2話 ボトルシップは放たれて

少年はボトルシップが好きだった。どうやって瓶に入れたんだろうといつも目を輝かせている。


少年はふと瓶の中の船が欲しくなった。そして瓶を割った。


手に入れた船はかっこよかった。でもそれだけ。


一度割れた瓶は戻らない。瓶の中にあるから船は魅力的だったと知った。


忘れがたい失敗の記憶。覚えているはずだった。


大人の船乗りになった彼は海から人魚を連れ出した。ともに陸で生きようと。


海から離れる度に老いていく彼女。あわてて引き返すが、海に辿り着いた頃には腰の曲がった老婆になっていた。


視線が奪われるあの美貌はもうそこにはない。目を覚まさない彼女を腕に抱いて彼は海原へと身を投げた。


飛沫を上げる水面に響く音。瓶の割れる音によく似ていた。

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