第7話
俺は現在焚火を囲うようにして半径3メートルほどの結界を張っている。
本格的に暗くなり始めた空にはキラキラと星が輝き始めていた。
「何やってんだ?」
そんな俺を見て、大河が声を掛けてくる。
ちにみに夕飯はゴブリンの死体をディグで解体した際に出てきた肉を焼いて塩を振って食べた。
不味かった。
「魔法防御結界を張ってんだよ、寝てるときにさっきみたいにゴブリンが来たらたまんねーだろ」
「あれ、結局お前魔法使うのか?」
「・・・・・・斬りだ」
「斬り?」
大河に指摘された俺は、ちょうど張り終えた結界に向かい鉄パイプを横に振るう。
「魔法防御結界斬り!!」
合わせてそう口にする。
「・・・あー、魔法防御結界斬りか」
よかった、納得してくれたようだ。
そんなこんなしているうちに辺りは完全に暗闇に包まれ、ふと空を見上げる。
「わーお・・・」
思わずそんな言葉がこぼれる。
その見つめる先には空一面に広がる星々。
小さい頃に一度だけ長野県の奥地で天の川を見たことがあるのだがそれの比じゃない。
現在俺らがいるのは東京の葛西という所だ。
少なくても隕石が落ちる前は絶対にこんなところでこんなものは見れなかった。
しばらく2人して景色に見惚れてしまう。
「なにあれ?」
大河が言いながら指をさす。
その方向を見てみると遠くの空が白く光っているのが見えた。
大した明るさではないものの、真っ暗な夜でその光はよく目立っていた。
さらにそれは空を照らしては消え、照らしては消えを繰り返していた。
「何だろうな」
そういいながも人為的なものだと推測する。
すると、その光が止み、その右奥からさらに同じような光が明滅を繰り返す。
その光をよく観察する。
「あれは・・・・」
そして俺はあることに気がついた。
「なんかわかったのか?」
「ああ、あれモールス信号だ」
「モールス信号?」
「そう、遠くにいても一定の間隔で光を点滅させて情報のやり取りができんだよ」
「へー、スゲーな。・・で、あれはどんな情報なんだ?」
「船橋西オーク2」
「オークってあのゲームとかに出てくるやつか」
「おそらくな、それが船橋周辺の西側に2体出たんだろう」
「おー、かっけえな」
そういいながら目をキラキラと輝かせる大河。
うん、確実に人がいるな、それもおそらく少なくない人数だろう。
目を覚ましてからは一度も大河以外の人間にあっていなかったからか心なしかどこかホッとする。
「なー、明日はあそこを目指さねーか」
俺がそう提案する
「おー、いいな」
大河が二つ返事で了承する。
手前側で光を発しているのはおそらく東京駅周辺かもう少し行ったところだろう。
今日と同じような頻度で魔物に遭遇するのであればかなり危険な移動になると予想できる。
あの感じで大丈夫かな・・・・・
「そんじゃ、明日に備えてそろそろ寝ようぜ」
まだ日は沈んだばかりだというのにも関わず大河がそう提案する。
「そうするか」
いっぺんに色々な出来事が起こりすぎたせいか俺もかなり疲れている。
正直疲れで今にも気絶しそうな俺は大河の提案を了承するも寝袋が無いことに気づく。
「あ、寝袋とかないじゃん」
「もう明日でいいんじゃね」
「・・・そうするか」
俺は一抹の不安を胸に冷たく固い地面へと寝転がり目を閉じるとすぐに夢の中に落ちるのであった。
_________________________
翌朝、早めの時間に起きた俺たちは再度ホームセンターに寄り、寝袋だけ回収してすぐに出発する。
何しろ普通に歩いても2~3時間はかかる道のりをわずかばかり運動不足な俺が、魔物をかいくぐりつつ移動するのだ。
何時間かかるか分かったものじゃない。
今日の作戦は、勝てる魔物は倒し、勝てない魔物相手には全力で逃げるだ。
かなり理に適った作戦だ、大河にはすでに伝えてある。
東京駅までは川を2つ渡らなければならない。
1つは荒川、もう1つは隅田川だ。
そして俺らはなんとか荒川を超える橋を渡ることができた。
が、
「おい、急げって」
「ぜぇーぜぇーぜぇー、・・・・も゛、もうむ゛り」
大河が俺を催促してくるがもう走れない。
無理、限界。
ホームセンターを出てしばらくした後1体のゴブリンに遭遇した。
俺らは走って撒こうとしたのだが、思ったよりも足が速く撒ききれないでいた。
すると、どんどんとゴブリンの数が増えていき、橋を渡りきるころには10体ほどのゴブリンに追われていた。
いささか運動不足な俺からしたらよく走った方だ。
完全に足を止め、膝に手をついて息をしながらも大河へ微笑みかける。
「先にいけ、・・・なーに・・すぐに追いつくさ」
ちょっと格好つけすぎちゃったかな。でもこれでいいんだ。俺はこの世界では適合できない。
「じゃかしーわぁ!!」
すると大河が俺をおんぶして走り出す。
「おい馬鹿!そんなことしたらお前まで」
俺は言いかけて言葉を飲み込む。
後ろを振り返るとみるみるとゴブリンが小さくなっていく。
・・・・・速いんだから。
俺が全力で走った時の3倍・・・・いや4倍はスピードが出ている。
確かに幾許かの運動不足はあるものの、さすがにこの差にはびっくり。
「ちょ、・・ちょ、ごめん・・おろして、ごめんごめん」
「なんだよ」
ゴブリン達が完全に見えなくなった後、大河の背中から降りる。
おかげで呼吸はなんとか整えることができたがバールを後ろに持ってそのバールで俺のお尻を支えていた為お尻が痛い。
「ごめん、助けてもらっておいてこんなんいうのはおかしいと思うけど、・・・これはなんか違う気がするわ」
「なにがだよ」
「これ、だって結局フィジカルじゃん、魔法関係ないじゃん。それで言ったらいくらでもやりようあるじゃん」
「・・・・ちげーよ、お前これは・・・・風魔法の・・・疾風走りだよ」
・・・・・・
「・・・・・・あー、風魔法の疾風走りか」
風魔法の疾風走りらしい。なら何の問題も無いな。
そんなやり取りの後俺らは再び歩き出すのであった。
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