第6話


武器を回収した俺たちは、2人そろって大きな鏡の前に立っていた。


俺の選んだ武器は鉄パイプだ。

ホームセンターの中にある剣士っぽい武器はこれしかなかった。


そして大河が選んだ武器は


「なんで魔法使いがそんな物騒なもん持ってんだよ」


「なんとなく杖っぽいだろ」


大河の手にはバールが握られていた。

それもよく見かけるバールよりも大分長く、1メートルほどはありそうだ。


大河はそのバールの曲がった部分を手に握り、杖のようにコツコツと地面をたたいて歩いていた。


柄のうるさいジャージにバッグ、サングラスに赤い髪、手には長いバール。

さらに長身でガタイもいい大河ははたから見たら完全にやばい人である。


実際やばい人間なのだが。


「とりあえず腹減ったから飯でも食うか」


俺がそう提案する。


「飯なんてあるか?」


「非常食がバッグの中に入ってる、って言ってもさすがに常温だと怖いから湯煎はするけどな」


「まじかナイス、俺も腹減ってたんだよ」


そういうと俺らはホームセンター内の階段を上り隣接している駐車場の最上階へと移動した。


相変わらずの晴天。

だが日はすでに傾き始めている、日が沈む前に野営の準備をする。


大河がその辺に転がっている木の枝を拾い適当な長さに折って一か所に集めていく。

俺は、ヒアの生活魔法で鍋と2つのコップに水を入れる。


カサカサ。


すると、背後から音が聞こえ振り返る。


そこには1匹のゴブリンがいた。


「まじか、こんな所にもいんのかよ」


そうつぶやいた俺はすぐさま鉄パイプを手に取りゴブリンへと構える。

大河もすぐにバールを拾い上げた。


だが、俺の足が急にがくがくと震え始めた。

ここにくる道中、何体か魔法で倒してきたが、これは剣士としての初戦闘である。

もちろん今までの人生のなかで何かを殺すつもりで殴ったことなどない俺は、リアルな命の奪い合いを前に怖気づいてしまっていた。


「おい、凛!!ビビるんじゃねー!何かあったら俺もすぐ援護する!!」


背中から大河の活が響く。


その声に一瞬肩がびくりと跳ねたが、1人ではないという安心感が俺の背中を押した。


「うぉぉぉおおお!!」


自分を鼓舞するように叫びつつ、鉄パイプを振り上げた状態のままゴブリンへと迫る。

ゴブリンの武器は木の棒だ、武器だけで言えばこちらが圧倒的に有利だ。


そしてその場で立ちすくんでいるゴブリンへと鉄パイプを思いっきり振り下ろした。


パシッ。


「・・・・・え?」


振り下ろした俺の鉄パイプはゴブリンにあっさりと素手で止めれらてしまった。

さらにそのまま強引に奪われ、投げ捨てられてしまった。


鉄パイプが落下し地面に衝突するとカランカランと音を立てる。


「ひ、っひ~~~」


腰が抜け、這いずるようにしてゴブリンから距離をとろうとするが

ゴブリンは醜悪な笑みを浮かべながらゆっくりと歩いて俺を追う。


完全に遊ばれていた。


「凛、大丈夫か!!」


すると後ろから大河の声が聞こえ思わず振り返る


「うおぉぉぉぉおお、ファイヤーー!!」


大河が右手のひらをゴブリンに向けながらそう叫ぶ。


すると_____


ポッ。


手のひらに小さく弱々しい火がともり、風によりすぐに消えた。

着火の魔法である。


・・・・・・・・


俺は、ゴブリンの視線が大河に向いているのを確認し、

腰が抜けた状態のまま先ほど投げ捨てられた鉄パイプを地面を這うようにして拾いに行く。

その間にも大河はゴブリンに向かって魔法を放つ。


「ファイヤー!!」


ポッ。


「ファイヤー!!」


ポッ。


「ファイアー!!」


ポッ。


ちなみにバールは左手に持っている。


大河がゴブリンの気を引いてくれていたおかげで俺は鉄パイプまでもうすぐの所までこれた。


が、


「キキッ!!」


鉄パイプのすぐ近くの物陰から新たに2体のゴブリンが現れた。


・・・・・・・。


後ろを振り返る。


「ファイャ・・・・・・・」


大河も気づいたようだ。


・・・・・・。


大河と視線が合い、ほんのわずかに沈黙する。


大河との視線を外し、目の前のゴブリン2体に向き直り右手をかざす。


「・・・・」


すると2つの風の刃が出現し、一瞬でゴブリンの首を切り落とした。


再度後ろを振り返るとそこには、うつむく大河と首から上が無いゴブリンの死体があった。


俺は無言のままパンパンとズボンについた汚れを手で払いながら立ち会がり、

先ほど集めた薪の前まで歩きそこで腰を下ろす。

大河も同様に無言のまま薪の前までやってくる。


「俺が火つけるよ」


大河がそう言い、先ほど全く出番のなかったバールを薪に近づける。


「ファイヤ」


ポッ。


バールの先に火がともる。

だが、なぜかバールの曲がっている部分を先にしていた為、その曲がった先で火がともってしまう。

当然その先に薪はない。そしてすぐに消える。


・・・・・・・・・。


無言のまま俺が薪に火をつける、火はすぐに薪全体へと燃え広がる。

そこへ、先ほど用意した水を張った鍋の中に非常食の入ったパウチ入れ、薪の中に直接置く。


「大丈夫かな俺ら」


しばらくの沈黙の後、大河がぱちぱちと音を鳴らす焚火をおぼろげな瞳で見つめながらボソッと口にした。


「・・・・・まー、ダメだろうな」


俺もまた、焚火を眺めながらそう答える。


・・・・・。


今日何度目かの沈黙。


「もういいか?」


大河が鍋の中のパウチを見ながらそういう。


「大丈夫だと思う」


鍋の水がぐつぐつと沸きあがってからしばらく立っている。

さすがにもうパウチの中も熱くなっているだろう。


大河がパウチを素手でとる。


「熱くないのか?」


「こんぐらい余裕だろ」


普通は余裕ではない。


「俺のもとってくれよ」


「おー」


そういい俺の分もお湯から引き揚げてくれた。


「じゃー、さっそくいただきます」


バッグからスプーンを取り出した大河がいただきますと両手を合わせてからパウチを開ける。


「え、くさ!。え、え、これ・・・?うわ、くっさ」


いいながらパウチを顔から遠ざける大河。

俺も急いでパウチを開ける。


「うーわ、くっさ!」


パウチの中身は腐っていたようだ。


もう・・・・・全てが最悪だ。


俺は頭を抱え深く息を吐くのだった。

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