第3話


目が覚める。


なんだかとてつもなく悪い夢を見た気がする。

にしても眠い。


それでも太陽が無理やり俺の意識を覚醒させようとする。

目をこすり大きなあくびをする。


ん?いやまて、太陽?なんで。


辺りを見渡す。


・・・・外だ


うわ、最悪だ。昨日夜飲みすぎてそのまま寝たんだ。


とりあえず体を起こして・・・・ってもう起きてる。

起きたまま寝てた?どゆこと?


あれ何これ?


よく見ると俺は紫色の半透明なものに囲われていた。


恐る恐る触れてみるとそれはボロボロと崩れ始めた。


・・・だめだ頭がはちきれそう。


てか、ここどこ?


公園で飲んでたはずなのに周りには木が生い茂っていた。

これではまるで森の中だ。


でも、ベンチはあるしな。


ボロボロになってるしツタでぐるぐる巻きだけど形や柄から

確実に昨日座っていたベンチで間違いないはず。


頭がキリキリしてきた。

まるでコップのぎりぎりでまで水を張ったような感覚

何とか表面張力でこらえているような状態だ。


目に見える疑問だけじゃない、さっきから頭の中で何かが主張してくる

それはなんていうか・・知らないことを知っているような。


あかちゃんが誰にも教わらず産まれた瞬間から呼吸ができるような感覚。


・・・どゆことだ?我ながら頭がおかしい。


まーとにかく、今は何も考えずに休みたい。


頭が割れそうだし眩暈までしてきた、情報量が多すぎる。

ほんとにあと一滴俺の脳みそに何か情報が入ればオーバーフローを起こすと確信をもって言える。


あのベンチで休もう。


俺はそう思い頭を抱えながら、とぼとぼとベンチへ歩き出す。


「おー、凛!!遅かったな!」


背後から声を掛けられる、よく知ってる声だ。

咄嗟に今は振り返らない方がいいと判断した俺はその声を無視してベンチへと再び歩き出す。


「おい!無視すんなよ!!見てみろよ、宇宙人捕まえたんだぜ」


・・・何それめっちゃ気になる。

俺は振り返ってしまった。


そこには全身緑色の肌と尖った鼻、それからサメのような歯が特徴的な化け物・・・

を、ヘッドロックしながら満面の笑みの大河が立っていた。


目を少年のように輝かせたその笑顔は、なんだか昔の大河を思い出させた。


「ふふっ・・・・」


思わず笑ってしまった俺の頭の中で何かがぶちっと切れるような音がした。


あー、あれはきっと、ゲームや漫画なんかで出てくる・・・・。


目の前がぐるぐると周り出す。


ゴブリンってやつだな・・・・。


俺は再度意識を失った。


_________________



再び目を覚ます。


どうやら寝転がっているようだ。


木の枝が重なるその向こう側に空が見える。

雲一つない晴天だ。


しかしそれが先ほど体験したものが夢ではないことを否応なしに証明していた。


体を起こし___息をのんだ。


目を向けたその先には両膝を地面につけて呆然とする大河、

そしてその周りを囲むようにして転がるゴブリンの死体。


「起きたか・・・凛」


大河が地面を向いたまま声を掛けてきた。

その顔面からは血の気が引いていた。


「・・おい、大河なんだよこれ」


「・・・こいつらが、・・・こいつらがいきなり襲ってきたんだ、俺だけならどーにでもあしらえたが、

寝てるお前にまで襲おうとしてて・・・それで・・、どうしようもできなくて」


辺りを見渡す。


先ほどの化け物、ことゴブリン達は顔がなくなっていたり下半身がなくなっていたりで

とてつもなく惨たらしい状態だった、寝起きの俺がパッとみて死体だとわかるほどに。


「なー凛、きっと宇宙人でも殺したら死刑になるよな」


「・・・・・いや、ならないよ」


置いてけぼりな脳みそをそのまま置いてけぼりにして今は場の雰囲気に合わせることにした。


「なら・・ないのか?」


「ああ。こいつら武器持ってたんだろ?」


ゴブリンの死体の周りには何本か包丁が落ちていた。


「そうなんだよ、こいつら木の棒やら包丁やら持っててよ」


「ならこれは正当防衛だ」


「正当防衛?」


「そうだ、こいつらから自分の身や俺の身を守るために仕方なく返り討ちにしたんだろ

そうゆう場合は罪にならないんだ」


「なら無罪ってことか?」


「その通りだ」


実際確定で無罪になるかはわからないが状況的にはほぼほぼ無罪になりそうだとは思う。


「でもそれ日本の法律だろ」


・・・その辺はもうなんでもいいだろ


「いや・・・、国際宇宙憲法だ」


「国際宇宙憲法・・・、ならほんとに大丈夫なのか」


よかった、ごまかせた。


それより今はすぐにでもここを離れたほうがいい。

でないと血の臭いを嗅ぎつけて、あの化け物がまた集まってきてしまう。


「とりあえず場所を変えようぜ、血の臭いがきつい」


俺がそう提案する


「おい、あの宇宙人たちはどうすんだよ」


「一旦ほっとこう」


「一旦て、お前・・・」


「いいから!とりあえず今はここを離れたほうがいい」


「お、おう・・・」


そういい、混乱状態の大河を無理やり説き伏せた俺は

再び周囲を見渡す。


少し先に開けた場所、というよりアスファルトが見える、あそこに出れば森を抜けられるだろ。

俺はその方向へと足を進める。


大河も後ろをついてきている。


幸いほかの魔物はまだ集まっていないようだ。


ん、魔物?

というか血の臭いに集まってくるってなんでわかるんだ?

まー、今はそんなこと考えてる場合じゃない。


どんどんとアスファルトが近くなっていく。

段々と町の様子が見えてくると同時にその歩みは小さく、遅くなっていく。


なんだよこれ・・・。


そして完全に止まった。


「あー、これすげーよな」


後ろから大河に声を掛けられる。


「・・・・・お前はこれ知ってたのか?」


「ああ、お前が寝てた時に1人で冒険しててよ。俺も初めて見たときはびっくりしたよ」


森を抜けた先には確かに町があった。

しかしそれは想像していたものとは大きく異なっていた。


どの建物も窓ガラスは割れ、中には火事でもあったのか丸焦げの建物もある。

さらにほとんどの建物が全体を覆うようにしてツタが巻き付いている。

建物だけではない、所々アスファルトを突き破り木々が生えている。


どーなってんだ?


茫然と立ちすくむ


もう今は深く考えるのはやめよう、

とにかく。


「仕事休めそうか?」


俺が大河に尋ねる


「多分な」


「やめろそんな会社」


言いながら俺はアスファルトに足をつけた

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