オオアサの神様
神田 真
大麻の神様
高校も入学して数週間が経ち、そろそろ生活が落ち着いてきたので、受験の日に会った神様の話をしようと思います。
あれは私立入試の朝。僕の住む県では併願が主流で、公立前哨戦のような雰囲気でした。
僕は周辺でそこそこ上位の学校、そのなかでも、上位クラスを受けようとしていました。
ここがすんなり通れば公立も受かる。そんな風に周りの大人からは言われてきました。
ですが不安症な僕はその逆。「ここを落ちたら公立も落ちる」と思ってしまい、当日まで精神状態は良くありませんでした。
大袈裟に言えば憔悴しきったまま迎えた入試当日。
僕はそこで人生初めての『満員電車』を経験しました。
普段より、あまり人混みが好きじゃない僕にとってははまさに苦行でした。いつも反抗してしまう親が毎日これと戦い、僕を養ってくれているのかと思うと、その日は心から尊敬しました。
そうしてもみくちゃにされ、朝食べたものすら口から出そうになりながら、乗り継ぎました。
お次は地下鉄。辺境のローカル線だからあまり人は居ず、空いている席に座ることができました。
なんでこんな遠いとこ選んだんだろ。なんて後悔をしながらふと顔を上げました。
長い前置きはここで終わりです。
僕は彼に会いました。
会いました。なんて表現は少し違うのかもしれません。本当は見かけたくらいです。
向かいの座席には、1ccもアジアの血が混じっていないような、彫りの深いお兄さんが座っていました。
田舎に住んでいるせいか、あまり外国系の人に会うことがなく、失礼ながらジロジロ見てしまったと思います。
服に疎いので個々にはわからなかったですが全体的にhip-hop風の服装でした。
スタイルの良い彼に良く似合い、まとまっている印象でした。
結構人を見る余裕あるんだなとお思いかもしれませんが、これは目からの情報を今思い起こしているだけです。
そして彼の頭上を見たとき、確か僕は小さく声を漏らしました。
一枚の葉っぱを象った刺繍の施されたキャップ。僕はその葉っぱに見覚えがあります。
自然のもとで浴びる太陽光より、薄暗い工場の人工の光の方が良く似合う、映画でよく見るあの植物です。
(大麻だ…どうみても大麻だ…)
もしかして世界ではそういうファッションが人気なのか、何故彼はこのキャップをわざわざ買ったのか。傾き者過ぎやしないか等、頭の中にさまざまな疑念が生まれました。
しかし見ず知らずの本人に聞くわけにもいかず、一人で考えていると、目的地に着いてしまいました。
電車を降りるとそこには、悩みや恐れがたった一人のキャップの意匠で全て吹っ飛んだ僕がいました。
結果は上々で受かることができました。
薬用大麻には、リラックスする効果があり、医療用に使えば、鎮痛や恐怖を取り除く効果があるそうです。
もしかしたら、つまらないことを心配し憔悴している僕をみかねて、大麻の神様が姿を原産国の人の姿で現れてくれたのかもしれません。
僕はそれから彼のことを大麻の神様と呼んでいます。
長くなりましたが、これが僕が大麻の神様に出会った話です。
オオアサの神様 神田 真 @wakana0624
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