第2話 星喰いの災厄②

 私はエレノア。

 アストリア教団の巫女を務めている普通の女の子。


 ……だったら良かったのですが、残念ながらそうではないのです。


 どうも私は女の子どころか人間ですらなく、「星喰い」という災厄らしいのです。

 星喰いとは、この星のマナを吸い尽くして、世界を滅ぼしてしまうという恐ろしい生き物。

 ただ星喰いとして未熟なせいか、私は断片的にしか自分のことを知りません。

 私はアストリア教団の聖域で倒れていたところを、ここの大司教に拾われ、丁度いいからと巫女に仕立て上げられました。

 私に預言の力なんてないと言ったのに、「最近はマナの枯渇で女神の力が弱まっていて、力を持った子が産まれない。これ以上巫女が不在だと国民が不安になる。聖域で眠っていた君はきっと特別な存在だ、形だけでもいいからやってくれ」……と、強引に話を進められてしまいました。

 でも、私がマナを吸っていたせいで巫女が産まれないのなら、責任を取ってこの役を務めるのも致し方ないでしょう。


 でも、そんなことは些細な問題なのです。

 一番問題なのは、私がこの世界に存在しているということなのです。

 何ですか、星を滅ぼす災厄って。

 そんなのこの世界にいて良い訳ないじゃないですか!

 そんな義憤に駆られた私は、何とか私自身を倒す方法を画策しようとしています。

 幸い私は悲しい化け物なので、死ぬのが怖いとか、そういう人間じみた感情はありません。

 この世界のために、儚く消えゆくことにも抵抗はありません。

 でも、私は本当にダメダメな災厄なので、自分の本体がどこにあるのか分からないのです。

 倒そうにも手がかりが全くない状態なのです、あとどのくらいで星喰いが動き出すかも分からないのに……。 

 だから私は今日も、せめてもと巫女の立場を利用して、星喰いの存在を世に周知しようとしています。


「シリウスぅ!また預言が出てしまいましたぁ!」


 彼はシリウス。

 私の付き人の司教で、いつも私のことを気にかけてくれるいい人です。


「やっぱりまずいです!国中のマナが災厄に吸い上げられて、国が滅んじゃうって……!この預言、今年に入ってもう何度も見てますよ!」


 有りもしない預言を騙るのは心苦しいですが、こうやって定期的に災厄の預言を報告しています。


「エレノア様、落ち着いてください。他の者に聞かれたらどうするのです?」

「で、でも……!」


 でもなぜかシリウスは災厄の預言にいつも後ろ向きなので、私も一生懸命食い下がります。


「こんなに同じ預言を見るのなんて初めてなんです!早くどうにかしないと、えっと……。きっと大変なことになっちゃいますよ! 」


 でもシリウスはそんな私の訴えも意に介さず、宥めるように問いかけてきました。


「……失礼ですが、エレノア様。前回の預言の結果はどうでしたか?」


 災厄の預言は大体止められるので、前回はそれ以外の預言をしてみたのですが、まあ大ハズレでひんしゅくを買いましたね。

 未曾有の不作で大規模な食料不足が起きるという内容だったんですけど……。


「え、前回……?いや、その、それは。当たりはしなかった、ですけど……?」


 だって、農家のおじさんが言ってたんですもん。

 今年はマナが少ないから不作になりそうって……。


「その前はどうです?」


 シリウスは続けて問いかけてきます。

 何ですか、そんなに過去のことをほじくり返してぇ。

 その前の預言は、エトワール帝国が戦争を仕掛けてくるという内容だったはず。


「や、えと、その……。えへへへ……」


 これもまぁハズレで、お前は本当に巫女の力を持っているのかと、国内外から冷ややかな視線が送られましたね。

 だって、衛兵のみんなが言ってたんですもん……そろそろ攻めてきそうって。

 今年中には来そうって。


 「えへへ、じゃないでしょう。あの預言のせいで、帝国とかなりピリピリした関係になったのですからね?」

「うう、すみません。本当すみません……」


 仕方ないじゃないですか、預言の力なんて本当はないんですもん……。

 私だってこんな当てずっぽうしたくないんです!


「とにかく、預言は必ず当たるというものではないようです。災厄に関する預言は、国民の不安を特に大きく駆り立ててしまいますし、下手な預言はエレノア様の評判も落としてしまいます。ここは一旦様子を見ましょう、出来れば1年くらい」


 でも、分かっています。

 シリウスの言っていることは、いつも私のことを思っての言葉なんだって。

 皆は巫女であるから私を担ぎ上げますが、シリウスは違います。

 初めて会った時から、ずっと私のことを見ていてくれます。

 だから、ここ数年大人しく彼の言うことを尊重しているのではないですか。

 そう自分に言い聞かせていると、シリウスが不意に私のしょんぼりした肩に手を置いてきました。


「いくら預言が外れようと、いくら世間が嘘つきだと蔑もうと、私はエレノア様の味方です。ですから、そんなに落ち込まないでください。ね?」

「シ、シリウスぅ……」


 ……あと、もう一つ厄介な問題があります。

 私はこの優しい彼のせいで、もう少しこの世界で生きていたいと思っちゃっているのです。

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