おパンツ星人現る
その日は、いつもと何ら変わらない平穏な日だったんだ。
すくなくとも俺、レッドはまさかこんな大変なことが起きるなんて思ってもいない、いつも通りの朝を迎えていた。
「…おはよ…ネリ」
寝ぼけ眼で起きてきたネリーロの朝食を準備し、髪を整えてやる。学校へ送り出すと、わらわらと他のメンバーたちも起き始める。
そもそも、俺たちってセイギノミカタ的なアレだから仕事ってしてないわけで。なんだか大人としては肩身が狭い立場なわけで。
「おはよー。レッド、お腹空いた~」
ブラウンがテーブルに突っ伏しながら朝食を要求する。これもいつもの光景なわけで。
「私、手伝いますよ」
ゴールドだけがなんか、いつも真っ当な感じなわけで……。
「ゴールド、ありがとう。それに比べてあいつらはっ…、」
拳を握り締めるが、文句は言わない。何倍にもなって返ってくるってわかってるからだ。俺だってバカじゃない。日々、学んでいる。
「聞こえてるわよ~」
「そうだぞ~」
リビングからブラウンとブラックが何かほざいている。くそっ、地獄耳かっ。
「今、心の中で暴言吐いたでしょ?」
ブラウンが鋭く突っ込みを入れる。
「ぐっ…、何の話ですかぁ?」
作り笑いで誤魔化す。
「さ、みなさん御飯にしましょ」
救いの手を差し伸べてくれるゴールドに、最大限の敬意を表する。
こうして、今日もだらりとした一日を過ごすことになるんだと思ってたんだ。
……そう、あの時までは――。
ピンポーン
不意に玄関のチャイムが鳴った。
ブルーがまた修行だとか言って地方に行っていたから、宅急便でも届いたか? と玄関に向かう。
「はいはーい」
カチャ、とドアを開けると、そこには知らない誰かが立っていたんだ。
「……え? あ、あの、え?」
俺はドモったね。
自分でも驚くほど、キョドってドモった。
なんでか、って?
「あの、え? うちになにか御用で? ほぇぇ?」
言っておく。決してアホになったわけじゃないぞ。驚いただけだ。すんげ~綺麗だったから。
「私…アナタ、探していたの」
その綺麗な誰かは、銀色の少し風変わりな格好をしていて、男性なのか女性なのかわからない感じだ。ま、俺的には女性だといいな、なんて思っちゃったりしちゃったりなんか、テヘペロ。
いや、そんなこと言ってる場合じゃない。
「ん? 探してた?」
俺を探してた、って言わなかった?
「アナタ、おぱんつ星人ネ?」
「へ? あの、違いますけど…、」
のっけからパンツの話とは失礼な!
「私の名前は、ロゼ。迎えにキマした。おパンツ王子」
「はぁぁ?」
意味がわからない。新手の詐欺か? パンツ詐欺? え? なにそれ。
「なに騒いでるの、レッド~?」
ブラウンが騒ぎを聞きつけやってくる。
「やだ、可愛い! ちょっとレッド、変なことしてないでしょうね!?」
「なんでそうなるんですかっ。変なことされてるのは俺の方ですけどっ?」
いつも俺がおかしいみたいに言ってくるんだっ。全然違うのにっ。
オカメンジャー基地、リビング。
なんだかわからないが、お茶を啜りながら訪問者の身の上を聞く羽目になる。
「おパンツ星の王子、探しにキマした。彼がそうです。一緒にカエロ?」
ロゼと名乗った宇宙人が、俺を口説きにかかる。俺はさっきからずっと否定しているのだがまったく聞き入れてもらえない。
「だからぁ、俺はおパンツ星人なんかじゃなくてぇ、」
「いいえ、アナタからおパンツ星の波動、感じるので」
どんな波動だよっ!
押し問答が続き、途中でブラウンやレッドがいらぬ茶々を入れるもんだから話は脱線しまくり、気付けばネリーロの帰宅時間。
「ただいまネリ~」
ガタン、とロゼが立ち上がる。
「こ…、これは…」
「あれぇ? お客さんネリか?」
ロゼがネリーロを凝視する。
「アナタ、おパンツ星人!」
ピッとネリーロを指し、ロゼが言った。おいおい、誰にでも言うんか?
しかし、そうではなかった。
「そうネリ。ネリーロはおパンツ星人ネリ」
高らかに、言い放つ。
「えええ?!」
「そうなのっ?」
「あら、まぁ」
俺、ブラウン、ゴールドの驚き。ロゼが満足そうに微笑んだ。
「一緒に帰りまショウ」
そっと手を差し伸べる。が、
「帰らないネリよ?」
キョトン、とした顔で返す。
「何故…何故デス!」
「だってネリ、ここ好きだし、レッドのおパンツ履いてるし」
おいおい、後者はいらん情報な上に俺が犯罪者みたいになるからやめてほしい…、
「ナント! パンツの儀を交わシタ!?」
「やめてよ、怖い、なにその儀って!」
「誰かのおパンツ履いたら一生添い遂げなきゃいけない、的なやつだったりして」
ブラウンが恐ろしいことを口にする。
「えええ? 嘘でしょっ?」
恐る恐るロゼを振り返ると、
「決闘シナいとイカン」
話がバラバラで頭に入ってこないんですけど!? なんで勝手におろしたてのパンツ取られた俺がネリーロと決闘しなきゃいけなくなってんのさ!?
「しかし! その決闘を中止させる方法があるんだって知ってるっ?」
肩で息しながら走ってきたのはブラック。おいお前、さっきまでいなかったな、何処に行ってたんだよ! と心の中で叫ぶ。
「なに? なんか知ってるの?」
ブラウンは興味津々だ。
「ネリちゃんがおパンツ星人かも、ってのはなんとなく気付いてた。レッドに懐くのも、おパンツの気配……変態お仮面であることをネリちゃんなりに察知して引き寄せられてるんじゃないかって」
へぇぇ……じゃねぇよ! なんだそれっ。
「ネリちゃんがレッドのおパンツ履いた時、なんとなく嫌な予感がした。だから色々調べてたの」
「すごいじゃないですか、ブラック」
ゴールド、その褒めはいらない!
「で、何かわかったの?」
「これだよ!」
取り出した大きな紙袋をひっくり返す。
バサーッ
中から出てきたのは、純白の、おパンツたち。
「白いおパンツネリ~!」
「そう! 清楚系白おパンツ! これを100日間穿くことで、二人の間に交わされた儀は解消できる! ……でしょ?」
傍らのロゼに訊ねると、ロゼが大きく頷いた。
「その通りデス。清楚系白おパンツ…」
ばら撒かれた清楚系おパンツを一枚手にし、しみじみと呟くロゼ。すんごい変な絵面だ。
「穿くネリ!」
ネリーロが服の上からフリフリレースのおパンツを穿く。そして俺の顔をじっと見つめる。おいおい、まさか…、
「レッドも穿きなよ」
ブラックが可愛いやつを選び、ニヤニヤしながら差し出してくる。なんだこれ。やべぇ感じしかない。
「やだ!」
俺は後ずさりながら抵抗した。が、みんなの手には清楚系白おパンツ。そしてじりじりと俺に迫ってくる。ホラーだ。
「おパンツたーいむ!!」
何故かロゼがそう叫ぶと、皆が手にしたおパンツを俺に向かって投げ始めた。
「ちょっと! やめっ、やめなさいって~!」
こうして平和なはずの一日は、今日もまたどこかに消えた。
俺はオカメンであることへの後悔を胸に、強く生きていかねばならない。選ばれしオカメ。選ばれし、変態お仮面の宿命なのだから…。
というわけで今日は、俺、レッドの一人称でお届けしました。
みんな、これからも応援、よろしくな!
楽しい週末を過ごしてくれよ!
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