おパンツ大作戦

「えっと~、今週の占いは、っと」


 いつもの秘密基地、のんびりとした光景。ブラウンはソファでファッション雑誌片手にくつろいでいた。傍らにはネリーロ。


「占いッテ、なに? オイシイ?」

「ああ、ネリちゃん、占いっていうのは食べ物じゃないのよ。運勢とかが書いてあるの。今週はこんな感じですよ~、ラッキーアイテムはこれですよ~、って」

「アイテム…、」

 きらん、とネリーロが目を輝かせる。


「どれどれ。私のラッキーアイテムは…はぁぁ? なによ、パンツって」

 ブラウンが眉をしかめる。

「おパンツ? レッド?」


 おパンツ=レッド。


 誰が教えたわけでもないのに、ネリーロはきちんと把握しているのである。


「ただいまぁ」

「ただいまでゴザル」

 噂をすれば…。レッドとブルーが荷物を抱え基地に戻る。

「あれ? ブルー戻ったんだ」

 修行に行くとか言ってここ最近留守にしていたのだ。


「お土産にホタテもらったんですよ! ほら、見て!」

 がさがさ、と袋を開けると、美味しそうなホタテがゴロゴロ入っていた。

「オイシソウ…、」

 ネリーロが手を伸ばす。

「ああ、ネリーロ、そのまま手掴みはダメだよ! これは夜、みんなで食べるんだから、ね?」

 レッドがネリーロを諭す。


「大分パパっぽいわね。好感度上げようとしてるの?」

 ブラウンの言いっぷりに、レッドが唇を尖らせる。

「なんですかその言い方っ。ネリーロの教育よろしくって丸投げしたのブラウンでしょう? 大体、俺はわざわざ好感度上げるようなことしなくてもみんなの人気者なんですからねっ」

「あ、開き直ってる」

「オカメ界隈ではモテモテなんですぅ!」


「確かに花…レッドは人気者でゴザル」

 ブルーがそれとなくフォローする。


「俺のファンだってきっといっぱいいますよっ。ちょっと近寄りがたい集団に紛れてるから声は掛からないですけどねっ」

「近寄りがたいのは集団じゃなくレッド自身なんじゃ…?」

 ニヤ、と笑いながらレッドを見上げるブラウン。

「ち…違うもんっ」

 レッドが可愛く視線を外した。


「レッド、にんき、アル?」

 曇りなき眼で訊ねてくるネリーロに、レッドが答える。

「人気あるよ~。俺の持ち物とか欲しがる女の子、いっぱいいると思うな~」

 テキトーぶっこいてみる。

「アイテム…、」

 ネリーロが呟いた。




 事件は、夜に起きた。


「うわぁぁぁぁぁ! なんでだー!」

 ジャージで現れたレッドが騒いでいる。


「どうしたのよ? 騒がしい。もうネリちゃん寝ちゃったんだからね?」

 食後のお茶を啜りながら、ブラウンとゴールドが顔を上げる。ブルーは食後の運動!とランニングに出掛けていた。


「ああ、大きい声出してすみません、でもでもっ」

 妙にモジモジしながら、レッド。

「でも…ないんです」

「あら、何か探しものですか?」

 ゴールドが訊ねる。

「お…、俺の…おパンツ…」

 きゃ、などと顔を赤らめ、告白するレッドを、冷ややかな目で眺めるブラウン。


「なんであんたのパンツがないのかは知らないし、正直、どうでもいいの。でも、そのモジモジっぷりからして、今、ノーパン?」

「だから慌ててるんですよぉ! おろしたての俺のおパンツ~~!」

 半泣き状態である。


「どっかそこら辺に置き忘れたんじゃない?」

 辺りを見渡すが、何処にも転がってはいないようだ。

「お風呂入る前に準備して、脱衣場に置いておいたんですよ!? 転がってるわけないじゃないですかっ」

「ん~、ブラックに隠された…とか?」

「あ! それ、ありそう!」

 ここにいないのをいいことに罪を着せようとする二人。しかし…、


「壁に耳あり障子に目あり。オカメ基地にはオカメブラック、参上!」


 シュタ、と、何処からともなく参上するブラック。そしてブラウンとレッドを睨み付け、告げる。


「私はレッドのおパンツに悪戯などしていない。今、レッドのおパンツを隠し持っているのは…それは、」

「そ、それは?」

 ゴク、とレッドが喉を鳴らす。


「多分、ブラウン!」

 ピッとブラウンを指すブラック。


「ええ? なんでよ! 私じゃない!」

「だってラッキーアイテムに『パンツ』って書いてあったでしょ?」

 机の上にあった雑誌をめくり、証拠物件Aを提出する。

「だからってなんでレッドのおパンツ盗むのよ。いらないわよ」

「……あれぇ?」

 否定され、途端にわからなくなるブラック。


「もしかして…、」

 ゴールドが考え込む。

「心当たりがっ?」

 レッドが前のめりになる。

「ブルーさんが穿いて行っちゃった、とか」

「えええっ、俺のおパンツを!?」


 噂をすれば、である。


「ただいまでゴザル~」

 ブルー、帰還。


「ちょっと、まんき…じゃないブルー! 俺のおパンツは!?」

「なんでゴザルかっ? いきなりおパンツの話とは!」

 慌てる、ブルー。

「拙者はフンドシ派でゴザル。パンツには興味ないでゴザルよ?」

「ああ、そうでしたねぇ」

 ゴールドが手を叩く。

「じゃ、俺のおパンツは一体どこに…?」


 一同が、首を傾げたのである。





 翌朝、レッドのおパンツを穿いたネリーロが起きてくる。


「ああああ、俺のおパンツ!!!」

「ん? レッドのおパンツ、ラッキーアイテムげっと…なの!」


 にっこり笑うネリーロを叱る者は、誰一人いなかったのであった。

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