新たなる同志 前編
宿敵、ヒョットコーンとの、最後の戦いを終えたオカメンジャーは、各々が自分の生活へと戻っていた。
しかし、週末には決まって秘密基地に集まり、ダラダラと過ごすのが日課だ。とはいえ、集まるのは暇を持て余しているメンバーだけである。
「あれ~? イエローは~?」
かったるそうにソファに寝そべってそう口にするのはブラウン。手にはお気に入りの文庫本『溺愛ゾンビと花の精霊は来世でも甘くて赤い血を浴びる』が握られている。
「イエローはなんかのイベント前だからしばらく来られないって言ってましたよね? 聞いてなかったんですかぁ?」
人数分のコーヒーを入れながら、レッドが答える。その間、ブルーは静かに瞑想に耽っていた。
通常、戦隊ものではレッドがリーダーである場合が多い。しかし、オカメンジャーに「普通」などという言葉は存在しない。強き者と弱き者。ここは弱肉強食の世界である。
「そういえばゴールドもいない?」
見渡すと、今日は大分メンバーが少ない。
「ゴールドも来ませんよ。ご加護が必要な時しか来ないって言ってたし」
「そっかぁ」
「しかし、その本なんなんです?」
「え? これ知らない? 溺愛ホラーだよ。最近すっごく嵌ってるの! これはね、今をときめく木曜正午さんの新刊!」
「……変なジャンル」
レッドが絡む。これは彼の悪い癖である。余計なことを口にするたび、後で面倒なことになるとわかっているのに、つい、口に出してしまう。そして面倒なことになるのだ。
「変…? 今、変って言った?」
ブラウンの双眸がキラリと光った。
「私が愛する溺愛ホラーを、変、と?」
「あ、いや、嘘ですなんでもないですぅ!」
謝ったもん勝ちだ。
すると、瞑想に耽っていたブルーがぱちりと目を開けた。
「やや!? 何やら不吉な予感でゴザル」
「え? なになにっ?」
何故か楽しそうな顔をするブラウン。
「ええ? もうヒョットコーンいないし、不吉なことなんかないはずじゃ…?」
面倒臭そうにコーヒーを啜るレッド。
「……てか、ブラックもいないの?」
そこら辺で昼寝でもしているのかと思いきや、いつものハンモックは空だ。
「ブラックはいなくていいでしょ。あいついると問題起きるし」
レッドが言い放った、その時だ。
「ゼッフル粒子、ドーン!」
外から叫び声が聞こえた次の瞬間、秘密基地の壁が、爆発する。
「なんでゴザルか!?」
「うわぁぁ、壁がぁぁ!」
「やだもぅ、なにが起きてるのっ?」
ぽっかりと空いた穴からは、外の景色が見える。人が一人通れるほどの、立派な穴である。
「ウリちゃん見てみてぇ! 変なの拾った!」
「こら、ブラック! 名前で呼んじゃダメ!」
「あ、そっか。ブラウン~、これ見て」
ブラックがズイ、と手にしたものを差し出す。それは、腹話術の人形のような、三頭身の可愛らしい女の子だった。
「やだ、可愛い! この子、何っ?」
「えっとねぇ、拾った。そんでね、この子もオカメンジャーみたいなの。多分だけど」
要領を得ない。
「はぁ? 勝手に持ってきたのかよ? それって泥棒なんじゃ?」
「どこにあったでゴザルか?」
「あのねぇ、ヒョットコーンの基地のとこ」
「え? ブラック、ヒョットコーンの基地に行ってたの?」
「そう。なにかいいもんないかと思って」
破壊されたヒョットコーン基地は、今やただの廃墟である。
「そしたらこの子がね、オカメのお面にお化粧しててさ」
「は?」
「なんでゴザル?」
レッドとブルーが首を傾げる。しかし、ブラウンだけがハッとした顔で三頭身のソレを見つめた。
「まさかっ」
「そうだよ。そのまさかだよ」
ブラックがにまっと笑った。
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