第8話 ロキとジェシカ
「どうしたの? エレナ」
ロキは小悪魔な笑みを浮かべてわざと知らんぷりをして見せる。一体いつからこんなにおませさんになってしまったのだろうか? 小さい頃はあんなに……って、そういえばよく覚えてないんだった。
エレナは顔を真っ赤にしながらロキの肩を小突いてやった。これが今の精一杯の抵抗だった。その可愛らしい反撃にクスッと笑うとロキはそれに構わずエレナをギュっと抱きしめた。
「ちょっ! だから!」
ストップって言ってるのに全然言うことを聞いてくれない。というか何なのこの状況は! 私をときめかせても何もいいことないわよ!
「すっごく可愛い」
「ッ!?」
耳元で甘く囁かれ体から力が抜けていく。私は甘やかすことは沢山してきたけど私自身を甘やかされるのはあまり慣れていなくて終始心がふわふわしたりザワザワしたりとにかく忙しくて何だか落ち着かなかった。
「例え君が僕を置いていっても僕はまた君を探し出す。今日出会ったのは運命なんだよ。神様が僕達を引き合わせてくれたんだ」
だから君の手伝いをさせて欲しい、力になりたい。もう一度聞いた言葉の意味は先ほどよりも重くのしかかった。その言葉はまるでプロポーズのように永遠を誓い、捧げるかのような純真さを感じたから。
「……ムギさんが、そうよムギさんが許してくれないわ!」
何としてでもロキを巻き込むわけにはいかない。どんな理由を使ってでも諦めさせなくては。
「お師匠様なら大丈夫です。あぁ見えて話は通じる方です」
弟子が復讐の手伝いに行ってきます! と言って、よし! 行って来な! って普通は言わないと思うけどなぁ……いや、でもムギ大魔導士様なら確かにいいそうで怖いな……
「じゃあ、わかった! こうしよう!」
ロキはいいことを思いついた!と何か閃いたようだった。
「僕はエレナのボディーガード、ってことでどうかな? 女の子の一人旅は危ないし」
これなら納得でしょ? と言った顔でロキは微笑んだ。しかしエレナはまだ納得していない様子でなんとか断る理由を探したが結局見つからなかった。ロキの意思は固く、もはや何を言っても頑なに何がなんでもついていく! の一点張りだった。
やがて時計の針は12時を回り、一日中歩き回ってへとへとになった体に限界がきた。そろそろ寝ないと明日フラフラで倒れてしまうかもしれない。でもロキは納得するまで寝かせてくれるような状況ではなかった。というかこのままだと寝ないで起きていて朝に内緒で出ようとしても後ろから何食わぬ顔でついてくる気がした。
「わかったわ。それじゃあ約束して」
正直。ついてきてくれるという気持ちは素直に嬉しかった。先ほど酷い目にあったばかりでこの世の中生きていくにはもう少し危機感を持たなくてはいけないと言うのも十分に学んだ。しかし、それに対抗する術は確かにまだ持っていない。ボディーガードは確かに願ってもいない申し出だ。でも一線はきちんと引いておかないと。
「ロキは絶対に手出しをしちゃだめよ」
あくまで貴方はボディーガード。手を汚す必要はない。手を汚す必要があるのは私の手だけで十分だ。と伝えるとロキは善処するよと意味ありげに微笑んだ。……本当にわかってるのかしら? とほんの少し睨みつけるとロキは露骨に話題を変えた。
「それよりもう寝ないといけない時間だね。さっきから眠そうに目をシパシパさせてたよ」
「……いじわる」
眠かったのは事実だが、それなりにきちんと顔に出さないよう気を付けていたつもりなのだがロキには全てお見通しだったみたいだ。
「エレナ、小さい時みたいに一緒に僕のベッドで寝る?」
「!?」
「だって、エレナにとって僕は可愛い弟、なんだよね?」
なら問題ないよね? とロキはにっこりと笑った。問題大ありだ。エレナの顔がみるみるうちに茹蛸みたいに赤くなる。
「エレナって思ったよりも鈍いみたいだから、僕はこれからどんどんエレナにアピールするからね」
「あ、アピール?」
「君のことが好きで好きでたまらないアピールだよ」
何を言い出すのかと思えば……エレナはロキの冗談にクラッと目眩がした。今日のロキはずっと変だ。いや、昔のロキを全然思い出せないから昔と比べられないけど、仮に昔の記憶があっても7年も会っていなかったんだ。そりゃあ大人っぽくなったり、男の子っぽくなったりどんどん変わっていくのだろう。
久々に会った家族に対して過剰なスキンシップや言葉をかけるのはそんなに珍しいことではないのかもしれない……なんかもうこれ以上考えたり悩んだりするとパンクしそうなのでそう思い込むことした。
「じゃあ決まりだね」
「え、何が、きゃあっ!」
ふわりと体が浮き、抱き抱えられる。どうやらこのままベッドに連れていくらしい。ほ、本当に一緒に寝る気なの!?
自分でもびっくりするくらい心臓が早く脈を打つ。どうかこの音がロキに聞こえていませんように。
部屋を移動し、そっとベッドに下ろされ座った。そしてロキはそのまま私の足に手を伸ばし、靴を脱がせてくれた。丁寧に靴を揃えベッドの下に置くと自分も横に座り、靴を脱いだ。隣同士ベッドに座っている絵面はなんだかわからないけど大丈夫なのか心配になった。
え、え、待って。本当に? 一緒に寝ていたのは7年も前の話だよね……?
なんて言葉にすればロキを傷つけずに済むだろうか? 延々と頭の中でそんなことを考えていたが結局灯りを消されロキはそのままベッドに倒れ込んだ。私はベッドに座ったままだったけどここで立ち上がるのも露骨に嫌がっているように見えるかなと思い、しばらく黙っていたがロキに引っ張られてそのままベッドに倒れ込んだ。
2人で寝っ転がっても大きいベッドのサイズは孤児院で使っていた布団とは段違いにふわふわですぐに深い眠りへ誘おうとしてきた。
私はもはやなるべく気にしてないように振る舞うことだけが唯一の抵抗だと頑張っていたけど、やがて疲れ果てた体はスースーと寝息を立てて眠りに落ちた。
「……エレナ、寝ちゃった?」
しばらくすると隣で可愛い寝息が聞こえてきて、何事もないように振る舞っていたロキもエレナが寝てしまった今は思う存分顔を真っ赤にしながら一人悶えていた。
(やっちゃった! やっちゃった! つい小さい頃みたいに寝ようなんて、僕のバカバカバカバカ!!)
エレナは優しいから断れないって分かりきっていたのについ甘えて強引にことを進めちゃった。嫌われてないかな、でもエレナってば全然僕のことを異性として意識してくれないんだもん……歳だってたった一つしか違わないのに……いつまでも弟扱いだなんて納得できるわけがない!
それにジェシカのことだって……、彼女が本当に兄弟達を大切に思っているのはわかっている。でも1人で全部は背負わせられないよ
僕にとっても……というかエレナは忘れているけど、ジェシカは僕の実の可愛い妹であり、良きライバルだった。いっつもどっちがエレナの隣に座る! とかエレナと一緒に出かける! とかエレナの一番は自分だ! とか喧嘩してたっけ……
でも紅龍の事件の時にエレナが僕を庇って一週間目が覚めなかった時ジェシカにこう言われたんだ。
「ロキ、もうあなたをお兄様とは呼ばないわ」
彼女はとても怒っていた。もし大好きなお姉様が目覚めなかったら例え兄でも許さないと。男なら、ましてやお姉様を本気で好いているのであれば守られるのではなく守れるくらい強くなって出直していらっしゃい、それまでは貴方をけして兄とは認めないわ! と喝を入れられたっけ……
我ながら逞しい妹だ。
しかしその妹が、何者かに殺された•••か。正直僕だって腑が煮えくり返っている。
「ジェシカ、僕は君のことも守れるくらい強くなったはずなのに……もういないんだね……」
ならせめて、隣にいるこの愛しい人だけは絶対に守らないと。またジェシカに怒鳴られてしまうな•••
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