第31話

 精神感応と予知の魔法を持っている者が生存しているのは、消去法でも確定している。唯一、中津川なかつがわ真誠まことが何の魔法を持っていたのか分からないが、精神感応と予知でなかった可能性は高い。


 ――予知か……。


 これが最も怖いと思う反面、どういう理屈なのかを考えてしまうのが大輔だいすけの性格だ。


 ――本当に未来が分かるなら、対抗しようがないだろ。


 覆らないから予知なのであり、簡単に覆るならば、それは予知が外れたという事になると考えてしまう大輔のセンスは、ある意味、図抜けている。


「バカな考えか」


 そして答えが出るはずがないとはいうが、思考を打ち切れないのは大輔の悪い癖だ。


 ――理屈がないから魔法だな。


 本来、魔法というのなら、数式や化学式では表せない事になる。


 しかし火、水、風、電撃、念動、精神感応と、できる事とできない事がハッキリ分かれているのならば、科学の範疇はんちゅうであって魔法とはいわない。


 そういった事を、どうしても考えてしまう。


 だが無駄な考えではない。


 ――


 大輔が黒ネコになる呪いをルールといった時、リーヴは否定しなかった。



 つまり魔女が仕掛けたのはゲーム。



 どちらがより底辺かを競い合わせるゲーム――大輔は、その答えに辿り着いた。


 できる事とできない事が最低限度であっても線引きされている。



 そして勝てる要素を突き詰めていくと、大輔は、その謎ゲームに辿り着く。


 扇谷おうぎがやつ保育園で行われていたというけったんというゲームは、鬼と子に分かれた後、目標物を最初に決め、鬼が子を見つけた、あるいは子が鬼に見つかった場合、ダッシュして目標物に戻ってタッチし、「けったん」といえば、いわれた方が負けるというルールだった。


 ――あいつらは、自由度が上がったと思ってるんだろうがな。


 逆だと大輔は思っている。


 かくれんぼは鬼に見つからない事が重要で、そこにあるのは老若男女の差がない思考力だが、このけったんは最後のダッシュだけで決着がつく。短距離走ともいえない、ペース配分も何も不必要な10メートルから20メートルのダッシュだけが勝敗を決め、しかも審判がいないため声の大きい方が勝つ……、


「脳筋とすらいえない奴らのゲームだ」


 それを正とする仲良し7人組との戦いであるから、大輔は勝てると確信している。7人の魔法少女を殺すというゲームはルールが厳密に適応されていく。リーヴを守ろうとする者が敵意と悪意を伴ってアレルゲンをぶつけると、魔法少女は致命的な損害を被る。皮膚を腫れ上がらせ、場合によっては腐らせ、呼吸を阻害して死に至らしめ、それは声の大きい子供がゴールポストを動かす様な真似を許さない。


 だから大輔は一つの仮説に辿り着ける。



 ――予知には、制約があるんじゃないのか?



 友幸ともみだけが知っているキーパーソン。


 ――予知というけど、今の段階で一番、可能性が高い結末を予想できるだけじゃないのか?


 だから未来が覆る事もある――誰が答えてくれる訳ではないが、大輔の予想は正解である。


 胸を張れる程の洞察ではないし、当たった事、それ自体も運の良さが存分に発揮されただけであるが、けったんで触れられたのに触れていないと言い張る程度のメンタリティでは辿り着けない地点だ。


 だから大輔は行動に出られている。


 国道を走らせている現在時刻は、午後9時を回った所。


 場所が知られているアパートに介を残して来るのは少々、躊躇ためらいがあるが、それでも介と分かれて行動できた理由は、小学生が出歩く時間ではないというのがある。そんな事はお構いなしに出歩く可能性は0ではないが、小学生の女児ならば親という制約は大きい。


 目的地に着くのは午後10時前。


 郡部に入ったところに存在する、古くからあるホビーショップだ。


「こんばんは」


 駐車場に車を停めて入った店内は、閉店時間ギリギリであるから大輔以外の客はいない。


 レジに座っていた大輔よりも少し年上の店員は、大輔の姿を見つけると苦笑いし、


「できてるけど、取りに来るの、閉店ギリギリだ」


「すみません。仕事があるし、ここ、ヤサから遠い」


 同じく苦笑いしてレジカウンターへとやってくる大輔に、店員は「やれやれ」と呟きながら、カウンターの棚にしまわれた段ボール箱を出す。


「ペイント弾」


 中身は大輔が注文したソフトエアガン用のペイント弾だった。


「特注なんて、何に使うの?」


「ゾンビ行為、ウザいんですよね。ペイント弾なら、文句いわせないから」


 サバイバルゲームに使うんだという大輔は、平気な顔をしてウソ吐く者特有の表情である。


「そう。でも赤しかないよ。しかも漆を使ったから、黒に近い赤だ。サバゲーなら、黄色もいる」


 サバイバルゲームで使う腕章が黄色と赤というのは、愛好家ならば常識だ。このペイント弾が、大輔のいう事に使われない可能性は、ここにも現れている。


「それは、また考えますよ。このペイント弾が上手く行ったら、大量発注します」


 これはサンプルだといいながら、大輔はサイフから一万円札を何枚か渡す。


 店員も代金さえしっかりしていれば文句はない――訳ではなかった。


亜野あのくん。そのカートリッジ」


 店から出て行こうとする大輔へ、ペイント弾をセットしている薬莢――カートリッジについて訊ねる。


「プレチャージ式だけど、何ジュールかけるつもり? それ、昔の二酸化炭素を使ってた頃のだよね?」


 ソフトエアーガンは1J規制というものがある。0.2グラムの6ミリBB弾で秒速96メートル程度に調整しなければならないのだが、大輔が持ってきた薬莢はそんな規制がある以前の代物。


「1Jですよ」


 大輔は即答したが、


「古いのしかなかったから使ってるだけで、法律を無視する訳、ないじゃないですか」


 レジカウンターへ顔すら向けなかった。


「……そうか」


 店員の声は、少し沈む。


「また来なよ。だから、手が後ろに回る様な事は、しないでくれ」


 それは大輔の嘘を見抜いたからだろうか?



 それとも大輔の覚悟にある死という文字を感じ取っての事だろうか?



「えェ、また来ます」


 やはり大輔は振り返らなかった。



 ***



 午後10時を回った国道を、大輔のスポーツセダンが走る。段ボールから出したペイント弾を違法に充填した薬莢にセットし、専用のソフトエアガンと共に入れられた桐箱を助手席に置いて。


「車だと、ケイタカは無理ね」


 青いスポーツセダンを一瞥したのは、えびす 健沙けなさ

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