第13話
ルール。
リーヴは大昔に黒猫へと帰られた人間であり、7人の魔法少女を、ルーヴを受け入れられた者が殺害すれば人間に戻れる。
7人の魔法少女の魔法は、それぞれ固有である。リーヴが語った内訳は、炎、水、風、電撃、精神感応及び予知、念動力。一名が詳細不明。
7人はあらゆるアレルゲンが致命的な症状を引き起こす。この場合、アレルギー検査で陰性であっても通用してしまう。
魔法少女を殺す「狩人」は、リーヴを認識している者でなければならない。
「気を付けるのは、このくらいか?」
「大まかには、これだけです」
リーヴの頷きに大輔は「そうか」と頷く。
「何とかなる」
大輔の言葉は口から
「……勝てる?」
助手席の介が横目で見遣った大輔の顔は、ハッタリと自信の両方が浮かんでいた。
「必敗とは限らない。こっちはルールを知っている。あっちは知らない。これは、大きな差になる」
これは大輔の自信になっている点。
「今はどうかしらないけど、俺の頃は……。そうだな、リーヴ、かくれんぼって分かる?」
「鬼を一人、決めて、他の子は鬼に見つからない様に隠れる遊びですか?」
リーヴの知識は一般的なかくれんぼだろう。これは介も分かる。
「俺の頃は、特に
扇谷保育所は、あの7人が通っていた保育所だ。
「……それは、鬼ごっこ?」
リーヴは訳が分からないという顔をして、それをルームミラーで見た大輔も、「俺も訳が分からなかった」という。
「見つければ勝ちだと思ってる鬼は当然、呆気にとられる。適応できないうちに負け確定だ」
けったんなどというルールを知らない大輔は、小学生低学年時代など、全く勝てなかった。見つかれば終わりのかくれんぼならば、鬼からできるだけ遠くへ隠れるのがいい。見つけにくるまでにも時間がかかるし、隙を見て位置を変えることも難しくはない。しかし見つかっても、スタート地点へ走って行って、けったんと宣言すれば鬼の負けというルールならば、スタート地点から遠くへ離れるのは下策というもの。
「ルールを知ってるのと知らないのは、それだけ有利不利が変わる」
見つかったら終わりか、見つかっても切り抜ける方法があるか、というルールの違いは、明確に戦い方に変化がもたらされる。
「僕の時もあるよ」
介も市立松嶋小学校へ来るまで知らなかったルールであるから、かくれんぼは勝てない遊びだった。
しかしルールの違いだけが介を連敗させた理由ではない。
「ギリギリだったら、絶対に僕の負けにされてた」
審判の不在、または当事者が審判だったからだ。
「
特定の生徒だけがルールをねじ曲げられる状況を、大輔は、この戦いで大歓迎する。
「まぁ、いい」
この「まぁ、いい」は、大輔の口癖だから出た言葉ではなく、本心から出て来た言葉だ。
「そいつらは《狩り》のルールを知らない。そして今までの遊びでは、自分が有利に立つためにルールを歪める事を常習としていた」
隙だ――隙でなく、何だと大輔はいう。今回はルールは絶対に違えられない。いざとなったらゴールポストを動かせばいいくらいに考える事を当たり前だと思っているのだから、紙一重で勝敗が分かれる時、必ず敗者に落ちる。
「介くん、辛い事もいっぱいあるだろうけど、学校へ行ってくれ。学校で、敵をよく見るんだ」
「うん……」
叔父と甥が頷き合ったところで、大輔の愛車は市立松嶋小学校の正門前に着いていた。
***
教室に入ると、教室から溢れてくる喧噪全てが、自分に害を為そうとしているのではないかという気分にさせられる。
しかし遅刻ギリギリで教室に入ってきた介は、小蔵や濱屋からの追及を受ける事はなく、朝のホームルームが始まってくれた。
「昨日から
教師の第一声は、それだった。
――中津川さん……。
介は知っている。昨日の夕方、祖父の形見だったブラックライトを使い、裏山の階段から転落死させたと知っている。
「あの……」
小さく手を上げた女子の名前を、介は失念していた。それ程、親しい訳でもなく、
その影響は、ここで出てくる言葉で大きくなる。
「中津川さん、裏山へ行ったみたいです。私、見ました」
介の元へ来る途中を見た生徒がいるのだ。
「あそこ、確か野良ネコが住み着いてるから、その世話をしにいったのかも?」
その生徒は、リーヴがいる事も知っていたが、惜しむらくは中津川真誠の性格を読んでいない。
――そんな訳、ないッ。
否定の感情が、幾分、介に余裕を生むが、しかし
「
「!?」
介が大きく身体を震わせたのは失敗かも知れない。
「鷹氏くん、何か知ってる? 鷹氏くんも確か、あの山にいるネコは地域ネコだから、世話をしてもいいんだっていってただろ?」
追及に対する介の答えは――、
「知らない」
これは介も自画自賛したくなった。
今の「知らない」は、極々、自然に出た。
だが自然に出たという事は、この40人中39人のユートピアでは、不自然だ。
「鷹氏」
小蔵が席を立った。
「怒らないから、本当の事、いえ」
小蔵が常套句にしているものだ。怒らないから――自分が格上であると告げ、自分が望む情報こそを本当にしてしまう。
「山の中で、真誠と会って、何かあったんだろ? いつも――」
――いつも、なんていう? 遊んでる、か?
狩人となった介は、そうして嘲笑を浮かべるようになれていた。
「いつも、遊んでくれてただろ?」
小蔵から出てきたのは、予想通り。
「知らない。僕は、元の大学女子寮の近くに住み着いてる黒猫と遊んでただけだから」
介の答えは変わらない。
だが、これをいえるくらいに、会は変わっていた。
「……!」
小蔵の顔は――赤黒く紅潮してたかも知れない。
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