第11話

「さて、今回ベストマッチングとなった二組の男女にはそれぞれ、これからとある待ち合わせ場所に向かってもらって、その後はちょっとしたデートをして頂きます。デートと言っても、それほど大層な事をして頂く必要はありません。二人並んで河川敷をぶらぶら歩いてもらってもいいですし、スターバックスコーヒーで三十分ほどお喋りをしていただくとかでも結構です。ただし!一つご忠告いたしますのは、今回のマッチングはちょっとした奇跡的な出会いですからね!決して性急に相手に何かを求めたりしない事。これを守って下さい。急ぎ過ぎたり焦り過ぎたりして、相手に何かをして欲しいとか、自分を丸ごと受け入れて欲しいなんて要求を前面に出したりしちゃあ、なりません。今回の二組の相性はめちゃくちゃいいんです。良すぎると言っていいくらいに。ですから、今回の出会いを大切に育まずにぞんざいに扱ってしまったら、それはもう、世界の終わりくらいに後悔する日がきっと来ます。どうか、どうか、大切に、ゆっくりと、二人の時間を育んでいってください」高宮はそう言って、オレともう一人の男を会場から送り出した。


「デートの待ち合わせってのは、男性が先について待っているのが、何と言いましょう、様式美として美しいですから」高宮はそんな事を言って、オレ達を会場から出るように促し、「およそ、十分後にお相手の女性を送り出しますから。待ち合わせ場所はそれぞれ、ここから徒歩で十分とかからない所です。ゆっくり歩いて行って、まだ見ぬベストマッチングな女性をそこでお待ちください」と言って笑顔でウィンクをしてくれた。


 オレは午後二時頃にくぐった門へ向かう。入って来た時にあった小さな立て看板はもうない。オレは少しだけ歩調を弛め、少し後ろを歩いていたもう一人の男に声をかける。

「えっと、なんというか、おめでとう」

「あ、あぁ。ありがとうございます。そして、あなたも、おめでとう……、でいいのかな?」

 オレ達は二人してはにかんだような笑顔を向けあった。

「ま、結婚に向けてのスタートラインに立っただけだからね。おめでとう、って言うのも変か」オレは言う。

「いえ、大いなる一歩ですし、おめでとう、でいいんでしょうね」男は言う。

「待ち合わせはどこでした?」

「私が指定された場所は市役所前ですね」

「へぇ。私はBALビル地下の丸善の、話題の新刊コーナー前でした」

「細かい指定ですね」

「えぇ。まったく」オレは苦笑いを浮かべる。

「でも、楽しい会でしたね」

「えぇ。とても楽しかった」

 オレ達は揃って門をくぐり、寺町通りに立って向かい合う。

「それじゃ、ここからは方向が違いますね。ご武運を!」オレがそう言うと、「えぇ、あなたもハッピーを手にしてください。ご武運を!」と彼は言い、オレ達は背を向けて歩き出した。


 時間は午後四時過ぎ。初夏の暑さはもう大人しくし始めている。オレは来た時とは逆方向に足を進める。『生まれてきちゃってゴ・メ・ン!』と歌っていたあの子供はもう帰路についたのだろうか。いや、はしゃぎ疲れて今頃はお父さんにおんぶされて寝ているのかも知れない。


 オレは指定された書店の一角を目指し、ゆっくりと歩く。

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